35億年前に「光合成」という反応を世に生み出し、大気を生み、多くの生物を絶滅させ、そしてまた生み出してきた藻。技術の進歩がめまぐるしい現代においても、結局ヒトは、藻が作り上げてきた地球の生態系の中の一コマに過ぎず、その事実はこれからも変わることはありません。

生活が豊かになり、様々な価値観が生まれたことで何が正解かが見えにくい時代になっていますが、そんな現代だからこそ、この「藻」という原点となる生物と向き合うことに価値があるのではないかと思います。

このページでは藻という生き物の魅力を、歴史を紐解きながらお伝えしたいと思います。

藻類とは何か?

中央の細胞素材:Zappys Technology Solutions 

サイト名の由来にもなっている「藻」ですが、どんな生き物かご存知でしょうか?

身近なところで言えば、池や水田でよく見かける緑色の水を思い浮かべてください。あの緑の水の中には、肉眼では見えない多種多様な小さな緑色の生物が存在しています。水中にいる、体長1ミリにも満たない主に緑の生物、これを本サイトでは『藻類(※)』と呼んでいます。

商業利用されている代表的な藻類
©2017 ちとせ研究所(撮影:尾張智美

※生物学的に厳密に言えば、『藻類』のカテゴリーにはワカメや昆布などの海藻や、光合成もしない原生動物も入ってくるのですが、それらを指す際は別の言葉で言い分けて記載しています。本サイトでの『藻類』という単語は、特に断りがない限り『微細藻類』のことを指しています。

藻類とは何か、より詳しく知りたい方はこちらの記事を御覧ください。

藻類と人類の関わり

藻類は、植物と同様に光合成をするため「小さな植物」と呼ばれることもありますが、実は進化の過程においては藻類こそが植物の祖先にあたります。

食料も化石燃料も、元を辿れば藻類から

藻類の起源は約35億年前までにさかのぼります。地球が誕生したのが46億年前で、現在の人類(ホモ・サピエンス)が誕生したのが20万年前と言われていますから、藻類の起源がいかに古いものかお分かりいただけるかと思います。

藻類は水中での進化を重ね、約5億年前に上陸。コケ植物、シダ植物を経て、今の我々の身の回りにある植物へと進化しました。この藻類から植物への進化の過程において、大量に繁茂したバイオマス(※)の残骸が地中に堆積し、長い年月をかけて化石資源へと変換されたといわれています。つまり、現代人は藻類から植物への進化の蓄積を掘り起こし、エネルギー源や化成品原料として利用しながら生活しているわけです。

また、現代の植物は藻類の子孫になりますが、人類はその植物を農作物として直接的・間接的に食することによって日々生きています。

©2017 ちとせ研究所

このように、藻類が存在したことによって今の人類の生活は成り立っており、藻類は人類の生活の基盤を支えている原点といっても過言ではありません。さらに驚くことに、藻類は今もなお太古の昔と変わらぬ姿で、地球上に繁茂し続けているのです。

※バイオマスとは:動植物そのものや、その副産物などエネルギー源として利用できるものの総称

藻類の産業ポテンシャル

人類と藻類の関わりについて理解していだたいたところで、次は産業としての藻類の可能性について説明していきたいと思います。

藻類は様々な産業分野で利用可能

藻類は植物と同様に、『光合成』で増えます。光合成は文字通り、光のエネルギーを利用して様々な物質を合成する反応です。光合成の主原料は二酸化炭素(CO2)で、その他に窒素、リン、カリウム、ミネラルといった無機物を取り込みながら複雑な化合物を合成していきます。

光合成によって合成された種々の化合物は、各産業の原料として利用することができるため、藻類は様々な産業分野に展開することが可能になります。

©2017 ちとせ研究所

藻類が合成できる化合物を市場規模と単価で整理して、順番に並べていくと3つの大きな分野に分けられます。この3つの分野をバイオ業界では色に例えて以下のように表現しています。

●『レッドバイオ』(高単価 / 市場小):
医薬品原料や機能性素材をメインとした医薬・健康に関連する分野

●『グリーンバイオ』(中単価 / 市場中):
食品や飼料といった食に関連する分野

●『ホワイトバイオ』(低価格 / 市場大):
燃料や化成品原料といったエネルギー・化学に関連する分野

これらの3分野は既存の産業分野の中での市場規模トップ3にあたり、その合計は2,000兆円にもなります。藻類はこれだけの規模の市場に展開できる、ポテンシャルを秘めた産業シーズと言えます。

なぜ今、藻類が注目されているのか

このように高い産業ポテンシャルをもつ藻類ですが、なぜ今、改めて注目されるようになったのでしょうか。

藻類への期待は、時代背景が密接に関わっている

藻類というのはその生物学的特性上、『食料危機』や『エネルギー危機』といった人類の生存基盤の根本が不安定化する時に注目される性質を持っており、これまでにも世界大戦時やオイルショックの時などに脚光を浴びてきました。つまり、そこには時代背景が密接に関わっているのです。

藻類のもつ特徴としては以下の4つが挙げられます。

<藻類の特徴>

©2017 ちとせ研究所

①二酸化炭素(CO2)を固定できる
→光合成により、CO2を吸収して物質化することができます。このため、藻類を培養することは、地球温暖化の一因と言われているCO2濃度の増加を抑制することにつながります。

②水資源を有効活用できる
→藻類は大量の水を使うようにイメージされがちですが、農業よりずっと少ない水資源で培養することができます。農業では畑に散布される水のほとんどが蒸発、もしくは地下に浸透してしまうのに対し、藻類では水面からの蒸発分のみで済むためです。また、海産性の藻類に対しては海水を使うことができ、枯渇が心配されている淡水資源を使う必要がありません。

③どんな土地でも利用できる
→藻類は水と光さえあれば基本どこでも培養することができます。このため、砂漠や荒地のような、植物が育たず現在利用されていない土地を有効活用することができます。これはつまり農業と住み分けが出来るということです。実際、現在実用化されている藻類の多くは農地として使えない土地が利用されています。

④生産性が極めて高い
→植物と藻類の光合成の仕組みや効率はほとんど変わりません。ただ、植物では根、茎、葉といった果実部以外の部分の維持に多くのエネルギーを割かないといけない一方、藻類は果実部そのものが増えていくため、人が活用できる部分が多くなります。この結果、植物と比べて生産性が大幅に高くなります。

現代社会は『世界人口の増加』、『地球規模の気候変動』といった、世界規模の共通課題を抱えており、これらの課題はそのまま『食料危機』や『エネルギー危機』といった人類の生存リスクに直結していると言えます。

課題が世界規模であるということは、仮に明日、世界で有事がおきた場合、その影響に自分も巻き込まれる可能性が高いということです。食料危機もエネルギー危機も他人事ではない、という個々の中にある漠然とした恐怖や不安は、グローバル化が進むにつれて今後も高まっていくのではないでしょうか。戦争やオイルショックといった一時的で局所的なものとは異なり、恒常的で全域的なものであることが現代の課題の特徴です。

食料にもエネルギーにも使える藻類を大量に生産する、ということは、これらの不安を低減させていく動きの一つになります。現代において藻類が注目を集める理由は、こうした時代背景に紐づいた人類の生存基盤に対する漠然とした恐怖や不安が本質にあるからではないか、と分析しています。

産業化に欠かせない、安価な大量培養技術

現在、各国で藻類の研究開発が進められていますが、藻類が産業として大きく育っていくために最も開発が必要な部分は『安価な大量培養技術』です。

2015年、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託事業「戦略的次世代バイオマスエネルギー利用技術開発事業」において公開したバイオ燃料用微細藻類(ボツリオコッカス)の屋外大規模培養の様子
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現状、世界で最も生産されている藻類はスピルリナと呼ばれる藻類種ですが、全世界の生産量を足し合わせても年間数万トン程度しかありません。全世界の穀物(米、とうもろこし、小麦、大麦等)の生産量の約25億トン(FAO:2016)に比べれば微々たるものです。

この生産量の差は、15,000年前に始まり改良に改良を重ねてきた農業と、50年前に初めて大量培養に成功したばかりの藻類との歴史の差が大きいと考えられます。藻類を大量に安価に培養する技術の開発はまだまだ発展途上であり、世界中の研究者たちが様々なタイプの培養方法の開発を、試行錯誤しながら進めているところです。

現在主流の藻類大量培養法は2種類ある

現在の藻類大量培養法としては、『池を使った開放系培養法[オープンポンド]』『バイオリアクターを使った閉鎖系培養法[フォトバイオリアクター(PBR)]』の二つに大別されます。前者は50年前に確立された浅い池を用いた培養方法で、水車や空気などで水を攪拌させながら藻類を培養していきます。後者は近年開発が進んでいるもので、チューブやフィルム、膜などを用いて立体的に藻類を培養する方法です。

©2017 ちとせ研究所

 

藻類培養の決定版とは?

農業にも各作物に合わせた様々な農法があるのと同じように、藻類も培養する種、地域、気候、土地の形状など諸条件によって最適な培養法は異なります。このため、これが藻類培養の決定版、というような万能な培養方法は存在しません。それぞれの条件に合わせた最適な培養方法を考えながら、いかに安価に藻類を作れるかの開発が世界中で進められているのです。

藻類産業の未来

15,000年前に農業が生まれたことによって、人類は安定的に食料を確保できるようになりました。食料を追い求めることをやめ、育てる方式に切り替えたわけです。そういう意味でも農業は人類の文明に大きな変革を起こしたといえるでしょう。

農業と並ぶ食料生産手段として

農業が土壌と植物を利用した生産システムであるのに対し、藻類は水と微生物を利用した生産システムであると言えます。これまで人類が食料を生産する手段としては農業しかなかったところに、もう一つ別の藻類を用いた新しい生産手段を得たということになります。

つまり、人類の文明を大きく変えた農業(Agri-culture)に匹敵するような新しい生産システムが、現代に誕生しつつあるわけであり、これは未来の人類が現代を振り返った時に『藻業(Algae-culture)』と呼ばれるほどの、革命的な出来事なのではないでしょうか。

太陽と二酸化炭素から有機物を生み出せるのは光合成だけであり、今までは農業を介してその恩恵を受けていましたが、これからは藻類を介しても受けられる選択肢ができつつあるわけです。加えて、農業では使えない土地や使えない水資源(海水)を使うことで、農業と住み分けすることも可能です。

農業のできる土地では農業を、農業に使えない土地では藻業を。そして、そこから2,000兆円の規模をもつ市場へ向けて新しい産業エコシステムを創り出していく、これが我々が見ている藻類産業の未来です。

©2017 ちとせ研究所

藻類産業は日本がリードできる

農耕民族として染みついている農的感性、発酵文化の中で育まれた微生物を取り扱う技術、そして西洋から取り入れて発展させてきた科学知識。加えて、海藻を食べる食文化を基盤とした人々の藻類への許容度の高さ。日本には藻類産業を創り上げていくために欠かせない要素が全て揃っています。1人でも多くの方に藻類に興味を持っていただき、日本がリードして未来の人類に残すべく産業へと大きく発展させていけたらと思っています。

藻類産業の構築を通して『藻業』の概念を確立し、未来の世界史に残る仕事にしていければこれ以上のことはありません。そんな未来への第一歩として、Modiaを通して多くの皆さんに藻類の魅力や可能性を知っていただければ幸いです。