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藻類とは? -実は曖昧な藻類の定義。その理由に迫る-

藻類とは? -実は曖昧な藻類の定義。その理由に迫る-

皆さん、「藻類(そうるい)」「藻(も)」と聞くと何を想像されますか?

池に漂っている緑色の生物を想像される方、
クロレラやスピルリナ、ユーグレナといった健康食品を想像される方、
海苔やわかめ、昆布といった海藻を想像される方、
赤潮やアオコの原因を想像される方。
当サイトで最新ニュース紹介している通り、
独立栄養で有用物質を生産できる今ホットな生物と想像される方。

どれも正解です。

わかめや昆布といった体長数十メートルの「大型海藻」も、クロレラやミカヅキモといった顕微鏡でなければ観察できない数マイクロメートルの「微細藻類」も、みんな「藻類」です。

 

岩波生物学辞典で「藻類」を調べてみると、

『光合成の過程において酸素を放出する生物から有胚植物を除いたもの』

引用元:岩波生物学辞典

と書いてあります。つまり、酸素発生型光合成を行う生物のうち、コケ植物、シダ植物、種子植物を除いた生物の総称です。「藻類」の定義が、とても多様な生物の寄せ集めであり、曖昧なことがおわかりいただけると思います。

藻類の定義が曖昧なのはなぜか?

なぜ、「藻類」の定義がとても曖昧なことになっているのでしょうか?
それを知るために、生命の誕生までさかのぼります。

すべての生き物は一つの生命から

現在、地球上に存在する生き物も、過去に滅んでしまった生き物も、すべての生き物は元を辿ると1つの生命に行きつくといわれています。最初に誕生した1つの生物から、ちょっと異なる性質を獲得した個体が生まれ、やがて元の生物とは異なる新たな生物種に分岐しました。その新たな生物から、再びちょっと異なる性質を獲得した個体が生まれ、やがて元の生物とは異なる新たな生物種に分岐しました。その新たな生物から・・・・、

このようにして、最初に誕生した生物から、ちょっとずつ変化して、別々の生物種へ分岐を繰り返して、生命はずっと引き継がれていきながら今の生物が存在しています。もちろん、今いる生物も、新たな生物種に分岐する途中にいます。

この生物の分岐と進化の道筋をわかりやすく図にしたものが、「系統樹」です。

生命の進化を示す系統樹

上記図は、2012年にAdlらによって提案された全生物の系統樹です(わかりやすくするため、一部の生物群を省略しています。)原核生物は単系統(同一共通祖先から進化した生物の集まり)が支持されている真正細菌と古細菌から構成されています。真核生物は単系統が支持されている5つのスーパーグループ(SAR〔ストラメノパイル界+アルベオラータ界+リザリア界〕アーケプラスチダ界、エクスカバータ、アメーボゾア、オピストコンタ)と、まとまりが未だに不明の生物群から構成されています。

38億年前に最初の生命は地球に誕生しました。これは「原核生物」といわれる、細胞内に細胞核を持たず、細胞内の構造がシンプルな生物でした。そして、光合成をする原核生物は30億年前に分岐したといわれています。原核生物は、約20億年かけて「真核生物」といわれる、細胞核を持ち、エネルギー供給器官であるミトコンドリアをもつ生物へと進化していきました。真核生物は、12億年前に多数の分類群に分化したと考えられています。これを真核生物のビッグバンといいます。あまりにも古く、また急激な進化だったので、このビッグバンの時の真核生物の分岐を辿ることは非常に困難ですが、真核生物の系統樹の根元のスーパーグループはこの時に分岐したと考えられています。

藻類は、進化を示す系統樹上で点在する

藻類の話に戻ります。

定義にある「藻類」を、系統樹の色付きの名前で示します。生命の進化を示す系統樹をみると、藻類は系統樹上に点在しており、ひとまとまりにはなっていないことがわかると思います。

まず、原核生物にも、真核生物にも藻類が存在することがわかります。次に真核生物を見てみると、アメーボゾア界とオピストコンタ界以外の、5つの界に藻類が存在していることがわかります。各々の界を見てみると、アーケプラスチダ界に所属する生物群(紅藻、陸上植物、緑藻、灰色藻)は全て光合成をする生物ですが、他の4つの界(ストラメノパイル界、アルベオラータ界、リザリア界、エクスカバータ界)はどれも光合成をする生物(=藻類)と、光合成をしない生物が混ざっていることがわかります。つまり光合成をする能力は、生物の分岐と関係がある部分と、関係がない部分があるということです。その理由は、生物光合成器官である葉緑体の獲得に深く関わっています。これはとても面白い話なので、またの機会にお話ししたいです。

「藻類」は30億年をかけて進化したてんでバラバラな生物群を、「光合成をする」というカテゴリーでくくったときの総称なのです。さらに、過去には光合成をしていたけれど、今はしなくなった藻類も多数知られていることが人々を混乱させています。例えば、2017年7月5日に中原氏が紹介した夜光虫は、光合成の機能を失った渦鞭毛「藻」です。

「藻類」を知れば知るほど、「藻類」とは何かが分からなくなってしまいそうです。

私たちが認識できる生物はごく僅か

私たちが目にする陸上植物は、アーケプラスチダ界の緑色藻類の中の広義の車軸藻類から進化したことが分かっています。5億年前に植物の陸上進出が始まったので、光合成をする生物の中では、陸上植物は新しい生物群であることがわかります。他に、哺乳動物や昆虫、魚、鳥などの生物はオピストコンタ界の「動物」で、キノコはオピストコンタ界の「菌類」です。我々がふだん目にする生き物のほとんどは、アーケプラスチダ界とオピストコンタ界というたった2つの界に所属している生き物だけです。つまり、私たちが認識できる世界に住む生物は、全生物の中の本当に僅かなのです。ちなみに、真核生物のうち、陸上植物にも動物にも菌類にも属さない生物を「原生生物(英訳:Protista)」と総称します。原生生物の話は、また別の機会にできたらと思っています。

分類学の発展のみならず、有用物質生産にも繋がる新種の発見

近年次々と新しい藻類が発見され、分岐のヒントを得ることで生物の分類が改変されています。また、新しく発見された藻類には有用物質を作ることが示されることもあります。例えば、高度不飽和脂肪酸を大量に生産するピングイオ藻は、2002年に新設された藻類です。藻類の研究は、分類学の発展に留まらず、私たち人類にとって有用な物質生産の大発見が潜んでいるのです。

本当に、藻類には目が離せません。


参考資料:
・Adl, S. M., Simpson, A. G., Lane, C. E., Lukeš, J., Bass, D., Bowser, S. S., … & Heiss, A. (2012). The revised classification of eukaryotes. Journal of Eukaryotic Microbiology, 59(5), 429-514.
・Hug, L. A., Baker, B. J., Anantharaman, K., Brown, C. T., Probst, A. J., Castelle, C. J., … & Suzuki, Y. (2016). A new view of the tree of life. Nature Microbiology, 1, 16048.
・Battistuzzi, F. U., & Hedges, S. B. (2009). Eubacteria. The timetree of life (eds SB Hedges & S. Kumar), 106-115.
・Philippe, H., & Adoutte, A. (1998). The molecular phylogeny of eukaryota solid facts and uncertainties. SYSTEMATICS ASSOCIATION SPECIAL VOLUME, 56, 25-56.
・井上勲. (2006). 藻類 30 億年の自然史. 東 海大 学 出 版.
・Raven, J. A., & Edwards, D. (2001). Roots: evolutionary origins and biogeochemical significance. Journal of Experimental Botany, 52(suppl_1), 381-401.
・Kawachi, M., Inouye, I., Honda, D., O’Kelly, C. J., Bailey, J. C., Bidigare, R. R., & Andersen, R. A. (2002). The Pinguiophyceae classis nova, a new class of photosynthetic stramenopiles whose members produce large amounts of omega‐3 fatty acids. Phycological Research, 50(1), 31-47.

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