アスタキサンチンという赤色の抗酸化色素を蓄えることで有名な藻類「ヘマトコッカス」。数ある藻類種の中でも特に産業化が進んでいる、認知度の高い種です。本記事ではこのヘマトコッカスという藻について、紹介していきたいと思います。

1.ヘマトコッカスとは? -生物学的特徴を中心に-

左図:藻類の系統樹、右上写真:ヘマトコッカスの通常時の様子、右下写真:ストレス下の様子 / 筆者作成

ヘマトコッカスとして一般的に知られる藻類は、Haematococcus pluvialis(※)という、真核生物>アーケプラスチダ>緑藻綱>ボルボックス目>ヘマトコッカス属の藻類です。

※生物分類の学名はHaematococcus lacustris (Gir.-Chantr.) Rostaf. ですが、Haematococcus pluvialis Flot.として広く知られています。

通常の形態は緑色をした少し縦長の細胞で、そこから生えた2本の鞭毛で動き回ります。そして、細胞の外側には寒天質の透明な膜がうっすらと覆っています(右上写真を参照)。この寒天質がヘマトコッカスの形態学的特徴の一つです。

ヘマトコッカスの最大の特徴は、細胞がストレスを感じるとアスタキサンチンという赤色のカロテノイド色素を蓄積することです。ストレス初期は鞭毛の生えた状態で緑色から徐々に赤色に変化していき、ストレスが一定以上続くと鞭毛のない球状の細胞に成長していきます。通常時とストレス下での違いについては、写真で見るのが最も分かりやすいと思うのでぜひ下記よりご覧ください。

www.photomacrography.net :: View topic – Haematococcus pluvialis, astaxanthin, cysts

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2.ヘマトコッカスがアスタキサンチンを溜める理由

一般的に緑藻類は、ストレスがかかる環境下で細胞の活動が抑制されます。ただそうした状況でも緑色の光合成色素を持つ限り、藻類は太陽からの光エネルギーを取り込み続けます。細胞が受け取らざるを得ない余剰の光エネルギーは活性酸素を発生させて細胞にダメージを与えるため、多くの緑藻類は増殖を停止したり、死んでしまいます。

一方、ヘマトコッカスはストレスを感じると、アスタキサンチンをはじめとしたカロテノイド色素を合成し、蓄積し始めます。カロテノイド色素は抗酸化作用の働きがあり、活性酸素から細胞のダメージを防いでくれるので、他の藻類と異なりストレス環境下でも増殖して生き残られるのです。具体的には、強光、高温、乾燥、高塩、窒素欠乏といった環境下でヘマトコッカスが生存できることが分かっています。

3.ヘマトコッカスを見つけてみよう

ヘマトコッカスは世界各地、日本全国で発見が報告されています。ただ、通常の緑色のヘマトコッカスは単独で水中を泳ぎ回っているので、滅多に発見できません。それでも淡水の環境(湖沼や川など)で通常時のヘマトコッカスを見つけたい場合はプランクトンネットで水を濃縮してから顕微鏡で探す方法が一般的ですが、すぐに見つけられるほど甘くはありません。

それでは、どのようにしてヘマトコッカスを見つけていけばいいのでしょうか?
実は、先述した「ストレス環境下で赤いアスタキサンチンを体内に生成しながら増殖する」という特徴に着目することでヘマトコッカスを採取できる確率が上がります。

干上がりそうな水たまりや岩のくぼみなど、生物が生育しにくいと思われる淡水の環境で、赤っぽい水の色を発見すればそこにヘマトコッカスが生息している可能性があります。というのも、こうした環境では水が干上がる直前には強光・高温になっていることが多くストレスがかかっていて、他の藻類は増殖できないが、ヘマトコッカスは増殖できる環境なのです。実際に採取する際は、水をそのまま掬い取ったり、右下の写真のように綿棒で赤い部分をこすり取って採取します。

左:ヘマトコッカスが生息していたくぼみのある岩(神奈川県川崎市)、右:筆者が綿棒を使って採取している様子

雨上がりの晴れた日、人々がなかなか気に留めないような何気ない水たまりも、筆者にとっては「藻探し」の大事なスポットなのです。

次回は、ヘマトコッカスから抽出されて産業界で広く利用されている色素アスタキサンチンを掘り下げていきますので、ご期待ください。