上のサムネイル写真のように白い雪の上が赤色に染まったり、他にも緑色に染まったりする現象をご存知ですか?
この現象は「彩雪現象」や「雪の華」と呼ばれています。特に赤色に染まっている雪は、日本語では「赤雪」や「紅雪」と、英語では「Watermelon Snow(スイカ雪)」と呼ばれます。
この真っ白い雪のキャンパスに描かれている、赤色や緑色の絵の具の正体は、実は藻類なのです。

氷雪藻とは?

雪の上に育つ藻類を「氷雪藻」や「雪上藻」といいます。一般的に、高山帯や極圏の夏季において雪や氷上に生育する低温耐性の藻類の仲間を指し、100種以上の藻類が含まれます。

多様な氷雪藻

・シアノバクテリア(藍藻) クロオコッカス属、ユレモ属、Calothrix属(ネンジュモ目)
・緑藻綱 クラミドモナス属、クロロモナス属
・車軸藻綱 メソテニウム属、アンキロネマ属
・黄金色藻綱 オクロモナス属
・シヌラ藻綱 マロモナス属
そのほか、多数知られています。

多様な氷雪藻
(a) Oscillatoriaceae cyanobacteria, (b) Calothrix parietina, (c)Chlamydomonas nivalis, (d) Ancylonema nordensholdii.(Takeuchi et al. 2014)

氷雪藻は世界中で発見されていますが、ほとんどの種が10℃を超える環境では生育できないため、年間を通して低い気温が維持され、標高がある程度高く、積雪が良く残る場所に限定されます。日本でも山岳地帯や高原の融雪時期に見られることがあります。

最も多くみられる氷雪藻は、緑藻綱Chlamydomonas nivalisです(図(c))。通常は緑色の藻類ですが、雪の上では低温、強い紫外線、ほとんど栄養がないという非常に厳しい環境に置かれるため、赤色のアスタキサンチンを蓄積して環境に耐えます。厳しい条件になるとアスタキサンチンを蓄積するという点は、同じく緑藻綱ヘマトコッカスと同様です。

氷雪藻はどこからくるのか?

氷雪藻は極地や高山帯に生育しているので、採取しに現場にいくことが難しく、分類や生態の研究では未だに不明な点が多く残されています。

そもそも氷雪藻がどこからやってくるのか、という疑問もその一つです。考えられているのは、地表から這い上がってくる説と、空中から舞い降りてくるという二つの説です。

多くの藻類は鞭毛が生えているため、水中で自由に動き回ることができます。融雪時には、雪の表面と地表が水でつながれるため、光を求めて氷雪藻が地表から雪表面に上っていき、大量増殖することで赤や緑に染め上げられる。これが地表からか這い上がってくる説です。この説では、数メートルの積雪でも這い上がれるのか、という疑問が残ります。また、北極海など地表がないところでの氷雪藻の増殖については説明がつきません。

一方の、空中から舞い降りてくる説では、大気中を飛散している藻類の胞子が、雪の上に降下、沈着し、雪解けとともに繁殖をはじめるというものです。この説が正しければ、地球上のどの地域でも同じ氷雪藻が見つかることになります。

北極と南極で同じ氷雪藻が存在した!

2018年、氷雪藻がどこからくるのかを考える上で、興味深い論文が発表されました。

Bipolar dispersal of red-snow algae

Red-snow algae are red-pigmented unicellular algae that appear seasonally on the surface of thawing snow worldwide. Here, Segawa et al. analyse nuclear ITS2 sequences from snow algae from the Arctic and Antarctica, identifying dominant phylotypes present in both poles as well as endemic organisms.

論文の内容は、北極と南極の赤雪について、それぞれの雪氷環境に生息する雪氷藻類に対して遺伝子解析を行い、どの地域にどのような種がどれくらいいるのかを確かめるというものです。

赤雪を構成する氷雪藻類は休眠状態の藻類が多く、赤色以外の分類形質に乏しいため種の同定は困難ですが、解析の結果、4地域で合計22種類の氷雪藻が見つかりました。それぞれ、北極に特異的な固有種は6種類、南極に特異的な固有種は9種類、両極に共通していた汎存種は7種類でした。

さらに、これら両極の固有種と汎存種についてのバイオマスを解析したところ、今回解析した配列の固有種6種は合計6%、汎存種7種は合計94%を占めていました。つまり、北極でも南極でも汎存種が優占種であり、固有種のバイオマスは少ないということがわかりました。

また今回の研究では、同種であっても、長い間それぞれの地域で根付いて生育しているのか、それとも地域間で行ったり来たりをしているのかが配列からわかるような、解像度の高い解析(進化速度の速いITS2領域を用いた完全一致配列の解析)を行っています。この解析結果から、汎存種は現在も北極と南極を行き来しており、分散、交流をしている可能性が示されました。その理由についてこの論文では、大気循環などで氷雪藻が分散している可能性が示唆されていました。

各地域間の微生物-微生物ネットワーク図
完全一致配列(点)につながった線の色が、その配列が検出された地域(緑線・赤線・黄線は北極、青線は南極)を示している。
図中の矢印が全ての地域から検出された完全一致配列。ほとんどが地域固有のものであるため、違う色で結ばれる線は少ない。(Segawa et al. 2018)

氷雪藻には固有種も汎存種もいることがわかりました。地表からか這い上がってくる説と、空中から舞い降りてくる説は、どちらも正解のようです。

雪山に行かれる方、一休みに雪の表面を見てみてはいかがでしょうか?氷雪藻に出会えるかもしれません!


参考資料
Segawa, T., Matsuzaki, R., Takeuchi, N., Akiyoshi, A., Navarro, F., Sugiyama, S., … & Mori, H. (2018). Bipolar dispersal of red-snow algae. Nature communications, 9(1), 3094.
TAKEUCHI, N., NAGATSUKA, N., UETAKE, J., & SHIMADA, R. (2014). Spatial variations in impurities (cryoconite) on glaciers in northwest Greenland. Bulletin of Glaciological Research, 32, 85-94.
竹内望(2010)雪氷藻類:色づく雪と氷の不思議,雪国環境研究,16, 21-35.
井上勲 (2007). 藻類 30 億年の自然史. 東海大学出版.
参考写真” 170828-FS-Inyo-PRW-001-MountRitter “© 2017Pacific Southwest Region 5/CC BY 2.0