先日、「藻類農業」について藻ディアで紹介がありました。記事内では、将来のタンパク質危機に備えて、藻類を培養する取り組みが紹介されていましたが、何も手入れをしなくても、藻類が生える。そんな夢みたいな「藻類農業」が、実は道端にあるかもしれません。

散歩で「イシクラゲ」発見

藻類好きの私にとって、散歩とは「藻探し」です。とはいっても、藻(ここでは微細藻類を指します)は、なかなか目で見ることはできません。水にも、土にも、空気中にも、木肌にも、コンクリート壁にも、雪にも、どこにでも藻はいます。しかし、それがどんな藻なのかは、顕微鏡で観察しなければわかりません。ですから、私の散歩のお土産は、いつも野外の水や土です。わくわくしながら採取しています。

某日、久しぶりの晴れ間に散歩に出かけると、微細藻類なのに、手でつかめるほどの塊になっている藻がいました。その名は、「Nostoc commune」。和名は「イシクラゲ」といいます。

「イシクラゲ」とは

イシクラゲは藍藻(シアノバクテリア)のネンジュモ(Nostoc)の仲間です。

このイシクラゲを顕微鏡で見ると、球状の細胞が数珠状に繋がっている細胞群で構成されています。この一本一本の細胞群をトリコームといいます。イシクラゲは、細くて長いトリコームがたくさん積み重なってバイオマット状になっています。イシクラゲは細胞外多糖を大量に細胞外に分泌していて、その細胞外多糖が糊(のり)の役目となり、トリコーム一本一本がお互いに付着して大きな塊になっているのです。

イシクラゲの顕微鏡写真(筆者撮影)

私たちに身近な「イシクラゲ」

イシクラゲは私たちの身近な場所で見かけることができます。というのも、窒素固定能を持つため、公園や駐車場、荒れ地など、他の植物や藻類が育たないところでも生息することがでるのです。ただ、生息場所には迷惑になるほどたくさん生える傾向があり、藻好きの私にはちょっと悲しいですが、専用の駆除剤まで売られてます。

イシクラゲを見つけた日の風景と、その3日後の風景の写真を示します。同じイシクラゲとは思えないほどに様子は変わっていました。初めて見つけた時のイシクラゲは、黒みがかった緑色で、全体がぶよぶよで見るからに水分をたっぷり含んでいる様子でした。一方で、晴れの日が続いた3日後に観察すると、イシクラゲは黒色になり、全体がかちかちに乾いていました。

乾燥耐性がある「イシクラゲ」

イシクラゲは、水分をたっぷり含んだ「膨潤状態」において、細胞が光合成をして細胞増殖をします。一方で、水分を失った「乾燥状態」では、細胞は生命活動は停止して休眠状態になることがわかっています。「乾燥状態」のイシクラゲは、水を約30倍吸収して「膨潤状態」になります。本来、細胞は極度の乾燥状態になると、生命状態が停止して死んでしまいます。ところが、イシクラゲは乾燥しても水を与えると復活するのです。文献によると、博物館に所蔵されていたイシクラゲの乾燥標本が、87年後に膨潤させてみると増殖を始めたという報告があります(Lipman 1941)。

このイシクラゲの乾燥耐性の理由は、イシクラゲが分泌する細胞外多糖にあります。この細胞外多糖は、保水能力はもちろん、強光阻害から細胞を守る抗酸化機能(Li et al. 2011)や日焼け止め機能(Bohm et al. 1995)があることが明らかにされています。

「イシクラゲ」は食べられます

イシクラゲの生息域は、日本国内にとどまらず、暑いところは亜熱帯から、寒いところは南極まで、世界中にいます。実はイシクラゲ、日本や中国、台湾などでは古くから食べられています。イシクラゲ(乾燥)は、粗タンパク質30%、脂質0.5%、炭水化物60%、無機質10%の栄養構造をしており、こうした多くの炭水化物を占める細胞外多糖は新しい食物繊維になりうると言われています(hori et al. 1990)。

「イシクラゲ」のお勧めの食べ方をご紹介します!

未来の食べ物として注目されているイシクラゲですが、散歩のお土産に採取したものを、膨潤状態と乾燥状態とで、味比べをしてみました。

まず、野外から採ってきたイシクラゲには土や枯れ枝が付いていますので、水で丁寧に洗います。膨潤状態のイシクラゲはゴミが取り除きやすかったです。一方で、乾燥状態のイシクラゲは、ゴミと一緒に乾いてしまっているのでゴミを取るのに一苦労しました。洗いながら水に漬けて30分、水分を吸収して膨潤状態に戻りましたが、水洗いの際に細胞外多糖も取れてしまいました。

きれいに洗った生のイシクラゲは青緑色の薄い膜でした。それを、30秒熱湯に湯通します。すると、くすんだ緑色になりました。湯通することによって青味が抜けたのは、藍藻特有の熱に弱い青い光合成色素「フィコシアニン」が抜けたからです。細胞外多糖がお湯に溶出するため、湯通ししたイシクラゲは少々弾力がなくなりました。一方で、茹でるのに使ったお湯は多糖が溶解してとろみがつき、沸騰中は泡が消えず吹きこぼれるほどでした。

水洗いしたイシクラゲ(膨潤状態)。茹でる前(左)と茹でた後(右)

膨潤状態のイシクラゲを茹でて食べてみると、、、
まったく味がなかったです。香りもしませんでした。触感はやわらかい膜を食べている感じで、とても食べやすかったです。見た目ほどはぷりぷりしていませんでした。とにかく味がないので、お刺身のつまに合いそうです!

イシクラゲとうしがんこの刺身

一方で、乾燥状態のイシクラゲを茹でて食べてみると、、、
イシクラゲ自体の味は、膨潤状態と同様に基本はしなかったですが、ほのかな土臭い香り、砂利っぽい舌触りでした。香りと舌触りを調和させるため、荒めに破砕した魚粉と一緒に頂きました。

イシクラゲと茅乃舎出汁のお味噌汁

皆様の周りにもイシクラゲ、生えていないでしょうか?
イシクラゲを食用に採取する際は、雨上がりの膨潤状態のイシクラゲを採ることをお勧めします。なお、くれぐれも、迷惑のかからないところで採取し、自分の責任で食べてくださいね!

タンパク質危機がやってくるといわれている中、「イシクラゲ」という、どこにでも生息して、尚且つこんなにも食べやすい藻がいることが見過ごされているのは、ちょっともったいない。そう感じるのは筆者だけでしょうか、、?


参考資料
・Lipman, Charles B. “The successful revival of Nostoc commune from a herbarium specimen eighty-seven years old.” Bulletin of the Torrey Botanical Club (1941): 664-666.
・Li, Haifeng, et al. “Antioxidant and moisture-retention activities of the polysaccharide from Nostoc commune.” Carbohydrate Polymers83.4 (2011): 1821-1827.
・Böhm, Günter A., et al. “Structure of a novel oligosaccharide-mycosporine-amino acid ultraviolet A/B sunscreen pigment from the terrestrial cyanobacterium Nostoc commune.” Journal of Biological Chemistry 270.15 (1995): 8536-8539.
・Hori, Kohji, et al. “Chemical composition, in vitro protein digestibility andin vitro available iron of blue green alga, Nostoc commune.” Plant Foods for Human Nutrition (Formerly Qualitas Plantarum) 40.3 (1990): 223-229.