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「藻類バイオ燃料商業化」の御旗はどこへ?米国と米国企業に学ぶしたたかさ

「藻類バイオ燃料商業化」の御旗はどこへ?米国と米国企業に学ぶしたたかさ

本部を米国テキサス州に置くQualitas Health社(以下、QH社)が、Green Steam Farms社(以下、GSF社)と業務提携し、藻類の培養規模を3倍に拡大することを報告した記事がある。

Qualitas Health社は、藻類由来の極性脂質EPA (エイコサペンタエン酸) をヒト用サプリメントとして世界で初めて商業化している。油脂 (食用油と同じもの) 形状ではなく、クリル油と同様の極性脂質状態のEPAの商業化拡大という点で、注目すべき記事ではあるが、その話はまた別の機会にしたいと思う。

この記事を読んで、非常に大きな違和感を覚えた。

多額の投資を受けて完成した藻類培養設備は、いつの間にか他者の手へ

最初に感じた違和感は、記事に挿入されている藻類培養設備の写真。

引用元:http://www.algaeindustrymagazine.com/qualitas-health-triples-algae-production/

これはニューメキシコ州にあるSapphire Energy社(以下、SE社)の 「Green Crude Farm」 と呼ばれていたものであった。 「ものであった」 と過去形で書いたのは、どうやら今はそうでないらしいからである。記事中にもSE社については一言も触れられていない。違和感を覚えて、少し調べてみると以下の記事を見つけた。

情報の出所も真偽も不明ではあるが、SE社のGreen Crude Farmが 「a farmer」 に売却されていたという報告だ。おそらくこの 「a farmer」 が、GSF社なのだろう。売却額については 「for pennies on the dollar」 としか記述がなく、売却時期の記述もない。

この記事でも同様に、「at an undisclosed price」 としか記述されていない。

ソースは定かでないものの、SE社のものであったニューメキシコ州の約40haの藻類培養用のレースウェイ設備は、既に他者の手に渡ってしまっているようだ。

重複する登場人物。大々的に掲げた御旗は成し得ぬまま

次に感じた違和感は、記事内でQH社の 「CEO」 および 「VP Operations」 としてインタビューに答えている人物達の名前だ。彼らはSE社の前CEOと生産施設管理者であった。ついでに記しておくと、QH社の設立者は、2001年に世界で初めて 「藻類バイオ燃料の商業化」 を掲げて設立され、大きな批判の中2009年に閉鎖されたGreenfuel Technologies社 (以下、GT社) の設立者と同人物である。本稿とは関係の無い話になるが、Algae Industry Magazine において、2013年に彼へのインタビューが記事になっている。

今思うと、2013年の時点で、ここまで先見性が高い話ができた人間はほとんどいなかったのではないかと思う。

SE社もGT社も、「藻類バイオ燃料の商業化」 を大々的に掲げ、米国政府や民間から多額の投資を受けていた。しかし、結果として両社ともそれを成し得ていない。前述の通り、GT社は2009年5月に閉鎖している。SE社の現状はよくわからないが、SE社のウェブサイトは以下の様に1ページを残すのみの惨状である。

引用元:http://www.sapphireenergy.com/

そして前進する、米国の新しい藻類産業

自分が感じた違和感は、つまり、

「藻類バイオ燃料の商業化」 を大々的に掲げて、政府援助を含めた多額の資金を元に得られた知見や設備を、「藻類バイオ燃料の商業化」 を大々的に謳っていた張本人たちが何食わぬ顔で別の商業目的で利用し始めている。しかも、意図的になのか、それがそれと分かりにくい形で伝えられている。

ということなのだと思う。

これが日本の話であれば、両社の関係者やそこに資金を拠出した政府は、大きな批判に晒されているのではないかと思う。ところが米国では、もちろん多くの批判はあるのだろうが、関係者達が 「藻類バイオ燃料の商業化」 という御旗を掲げ、多額の資金を集め、知見を貯め、設備を整えてしまい、新しい藻類産業を立ち上げてしまっている。QH社やGSF社が、商業的に今後成功するかどうかはわからないし、彼らのやり方が 「正しい」 かどうかを判断するのは難しい。ただ、おそらく技術も産業も大きく前進するであろう。

正義や正論も重要ではあるが、こういった 「したたかさ」 と、その 「したたかさ」 を受け入れてしまう土壌には、見習うべきことが非常に多いように感じた。

この記事を書いた人

ちとせ研究所所属。東京大学農学部卒業後、アリゾナ大学生物システム工学科にて博士号を取得。その後同大学にて微細藻類バイオマス大量生産を目的としたフォトバイオリアクターの開発・研究に携わる。2015年、13年間の米国生活からとうとう帰国し、真面目に社会人化。光合成でモノをどんどん増やすことに興味のあるアンパンマンに憧れる中年。

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