現在、国立科学博物館では、企画展「地衣類 ー藻類と共生した菌類たちー」が開催中です。
企画展「地衣類―藻類と共生した菌類たち―」(2017年12月19日(火)~2018年3月4日(日))- 国立科学博物館
今回は、簡単に地衣類について整理した後、この企画展の紹介をしたいと思います。

地衣類とは

地衣(ちい)、聞きなれない言葉だと思いますが、私たちの身近なところにいる生物です。
例えば、こんなところにいます。

(左)木肌についた黄緑や青緑の地衣類、(中央)木肌についた薄青緑の地衣類、(右)コンクリートについた緑の地衣類

樹木の木肌また岩肌に、まるで黄緑、青緑、薄青緑のペンキが塗られているような光景を見かけたことがありませんか?実はその正体は地衣類なのです。

地衣類は、光合成ができる藻類(緑藻と藍藻(シアノバクテリア))と、光合成ができない全く別の生き物・菌類(酵母、カビ、キノコが含まれる子嚢菌と担子菌)が共生している複合体生物です。地衣類の本体は菌類であり、藻類と共生している生活スタイルを「地衣化」といいます。

地衣類は実に様々な環境に生育できます。極地などの寒冷地域や、有毒ガスが存在する地域など、藻類や菌類が単独では生活できない厳しい環境にも分布しています。

地衣類の共生関係

通常、藻類は水中で光合成をして自力でエネルギーを獲得できる独立栄養生物です。一方で、菌類は私たちと同じ従属栄養生物であり、どこからかエネルギーをもらってこなければ生きていけません。

地衣類横断模式図a:上皮層、b:藻類層、c:髄層、d:下皮層、e:偽根

上図は典型的な地衣類(異層状地衣類)の断面図です。本体である菌類の中の、上図b層に藻類が共生していて、光合成をしています。菌類側にとっては、光合成ができる藻類を体内で飼うことでエネルギーを獲得できるので、好都合であることはすぐに理解できると思います。

では、独立栄養生物の藻類があえて菌類に収まっているのはなぜでしょうか?

藻類側にも様々なメリットがあると考えられています。菌類に入ることで、乾きに弱く水中生活に適している藻類は、乾燥から守られます。それと同時に、光合成に使う光量の調節や紫外線からも守られます。また、外敵からの忌避作用もあるのです。

この様に、地衣類は菌類側にも藻類側にも利点があるため、共生関係が成り立っているのです。そして、共生関係が成り立っているからこそ、極限環境でもお互いに助け合って生活ができて、分布域を広げているのです。

国立科学博物館・企画展「地衣類 ―藻類と共生した菌類たち― 」に行ってきました!

2017年12月19日~2018年3月4日、国立科学博物館では企画展「地衣類 ―藻類と共生した菌類たち― 」が開催中です。終了間近ですが、筆者から展示の様子を少しだけ報告いたします!

※撮影協力:国立科学博物館

展示は1部屋にコンパクトにまとめられていました。ここに、地衣類の説明、標本、化学物質の利用、人々との関わり、アート、マント?!と、1部屋では収めるのが大変だっただろうというほどの充実した展示が行われていました。

主な展示内容は以下の通りでした。
・地衣類の生物学的な特徴の説明
・高山から街中、はたまた極地から熱帯まで、多種多様な実際の地衣類の標本
・地衣類から取れる特殊な化学物質の説明
・地衣類色素による染色物の実物
・地衣類による環境モニタリングの説明
・地衣類食品の実物紹介
・地衣類蛍光色素を使ったアート
・地衣類マントで地衣類体験

衝撃ナンバーワン

私たちが見かける地衣類といえば、先の写真のような、何かの基質(木や岩など)の側面に添って付着し、一体化している物ばかりと思っていました。しかし、もっと大きくてつるのような地衣類も日本でごく普通にみられることを、藻好きとして恥ずかしながら、この展示で初めて知りました。

針葉樹林帯の木に付いている、けばけばしたつる(木の上の方の枝から簾のように垂れ下がっていたり、木の幹に付着しているもの)が、実は地衣類でした。

※撮影協力:国立科学博物館

最近、筆者は登山がマイブームなのですが、山の中でも水や木の幹、面白い土を見つけるために下の方を見て、藻探し(地衣類を含む)をしていました。今思えば大変惜しいことをしていました。登山では、下も上も見なければいけなかったのです!

わくわくナンバーワン

近年、体験型の展示が増えてきたり、博物館も様々な工夫で来館者を楽しませてくれています。この地衣類展にも地衣類になりきって写真が撮れるフォトジェニックスポットがありました!

地衣類が生えている木の幹の拡大スクリーンに、地衣類模様のマントを被って、隠れることができます。その地衣類マントの柄は、単に地衣類の模様をコピーしたものではないのです。昆虫の蛾は、葉っぱや枯れ木、花など色々な自然の模様に擬態しています。今回の地衣類マントの模様は、地衣類に擬態する蛾の羽の模様です。木の幹に隠れるなら地衣類が一番!と、忍者気分を満喫できます。自然界で地衣類に擬態している蛾や蝶には、多くの種類が存在します。今回はそのなかから6種類の蛾や蝶の模様から、自分のお気に入りを選ぶことができます。
(地衣類擬態マントは、飯田市美術博物館からの借用品とのことです。地衣類展の会期が終了しても、飯田市美術博物館でみられるかもしれません。ご確認下さい。)

地衣類になりきっている筆者(本当は蛾=キクビゴマケンモンになりきっているのですが。。) ※撮影協力:国立科学博物館

満足感いっぱいの企画展示でした!

国立科学博物館の地衣類展は2018年3月4日(日)までです。

この機会に、地衣類を!藻を!皆様にもっと知っていただきたいです。

また、企画展「南方熊楠-100年早かった智の人-」も同時開催中です。南方熊楠は日本の古い博物学者で、地衣類の標本を700点以上収集しています。微細藻類や大型藻類(海藻)についても研究をした、まさしく智の探究者です。企画展では南方熊楠の生涯と菌類のコレクションなどを展示しています。このような研究者がいたおかげで、現代の生物分類学が発展していったと思いました。