3.11以降、身近なところでも太陽光発電のソーラーパネルをよく見かけるようになった。

ソーラーパネルには様々なタイプがあるが、現在最も普及しているのは結晶シリコンを用いたタイプである。シリコンは日本語ではケイ素と呼ばれている。ケイ素の原料は珪石(SiO2)で、地球の表面上では酸素の次に多い化合物であり、珪藻(ケイソウ)・放散虫・シダ植物・イネ科植物などといった一部の生物でも骨格として利用されている。栄養素としての必要性はあまり判っていない。

多方面から注目を集める珪藻

このうち、藻類の一種である珪藻はケイ素を利用している生物としては最もメジャーな生物であり、最近では『珪藻土のお風呂マット』などで、珪藻の名前を目にされたことがある方も増えたのではないだろうか。このお風呂マットに使われている珪藻土は珪藻の殻の化石にあたる。

また、藻ディア内でも珪藻にまつわる記事があるので、ぜひ参考にして頂きたい。

海や湖沼などで大量に繁殖した珪藻は、死ぬとその死骸が水底に沈殿していく。死骸の中身の有機物は徐々に分解されていくが、二酸化ケイ素を主成分とする殻は分解されずに蓄積していく。このようにしてできた珪藻の化石からなる岩石が、珪藻土と呼ばれているのだ。

珪藻の殻には小孔が多数開いているため、水分や油分を大量に保持することができる。お風呂マットなどはこの性質を応用して作られた製品となる。ちなみに、珪藻土の最大の用途は濾過助剤である。吸着能力が低く、溶液中に溶解している成分はそのまま通し、不溶物だけを捕捉する性質を利用したものだ。余談だが、私が以前勤めていたワイナリーでも、ワインを瓶詰めする前に、珪藻土フィルターを使って不純物を取り除いていたことを思い出した。

この珪藻の殻は、弁当箱のように、大きい外殻の内側に小さめの内殻(それぞれ半被殻; theca と呼ばれる)が組み合わされた構造となっている。これを顕微鏡で覗いてみると驚くほど美しい形をしている。

顕微鏡でしか見えない数μm(ミクロン)の世界に、こうした幾何学的で美しいデザインが生み出されている時点で、私なんかは自然の中に人智の及ばぬ存在を感じてしまう。アートと称して人が作り出した物よりもアートっぽく、意志を感じるデザインに見えるからだ。

ちなみに、この珪藻の美しさに魅せられている人は世界中に数多くいて、その名も「珪藻美術館 (Diatoms Art Museum)」という写真集が出ているので、興味ある方はぜひご覧頂きたい。

珪藻の殻にビジネスチャンスを見出したベンチャー企業

さて、前置きが長くなったが、この珪藻の殻をソーラーパネルの素材として利用しているベンチャーを紹介したい。2014年に設立されたスウェーデンの藻類工場は持続可能な考え方をもったスタートアップ企業である。

This Swedish startup found the answer to more efficient solar panels… in algae?

同社は北極海の低照度、低温条件下で耐えられ増殖する珪藻を見つけ出し、この珪藻の外殻が光を非常に効率的に吸収し、過酷な条件下で生き残ることを発見した。

CEOのSofie Allert氏は「この珪藻殻は、光が弱い場合でも光合成を確実に行うために、可視光を極めて効率よく捕捉するように設計されたナノ多孔質シリカ材料である」と語っている。

彼らはこの性能が太陽電池のパネル効率向上に使えるのではないかと考え、この珪藻の殻を用いた光吸収層を、ソーラーパネルの上もしくはガラス面の下の封止剤層上に均一に広げて試してみた。その結果、パネルの反射を抑えてより多くの太陽光を太陽電池に届けられたことで、4%ほど効率を上げることに成功している。

また、珪藻の殻はDSSC(色素増感太陽電池)と呼ばれる新しい対応電離技術にも応用ができ、DSSCパネルの二酸化チタン層に珪藻の殻を組み込んだところ、効率を60%も向上させることに成功している。

彼らのこの発見は、世界自然保護基金(WWF) 2017 Climate Solver賞を受賞したことで世に広く知られることとなった。

WWFは、この技術を用いればソーラーパネルのコストを大幅に削減し、効率を高める可能性を秘めている、という理由で選んだ模様だ。2027年までに市場の30%に浸透すれば、年間2,100万トンのCO2排出を削減できると言っている。

同社は、欧州のSolar Energy Research Institute と協力して、2018年にソーラーパネルにおいて実証試験を行い、2019年までに最初の藻類生産工場を建設することを目指している。最終的には、2030年までに世界で100棟の藻類工場を作ることを目標としているようだ。珪藻の殻を『ナノ多孔質シリカ材料』として捉えれば、今後もビジネス上、色々と面白い発想が生まれそうだ。自然の作り上げた構造美の一部を、人の実生活にも取り入れていける智恵が人の中に生まれてきた、と考えるべきか。なんとも感慨深い話だ。