「珪藻」は、食物連鎖の基盤となる単細胞の小さな藻類だ。食物連鎖における一次生産者として全体の20%を占めており、海洋の一次生産者としては実に45%を占めている。また、珪藻は大量の二酸化炭素を取り込み、酸素を排出している。その光合成量は、なんと世界の全熱帯雨林に相当するほどだ。

ガラスと同じ、二酸化ケイ素でできた被殻があるのが特徴で、顕微鏡で観察すると冒頭の写真のように、様々な美しい形状を観察することが出来る。

「珪藻」にはピンとこない方も、「珪藻土」という言葉は聞いたことがあるのではないだろうか?珪藻土は、珪藻の被殻の化石が主成分の土のことであり、色々なものに活用されている。吸水性の高さを活かした、バスマットやコースターなどが最も身近かもしれない。他にも、醤油やビールのろ過助剤としての利用や、湿度調整と脱臭の目的で住宅用壁材としての利用など、実に幅広く活用されている。

このように、化石になってもなお私たちに多大な恩恵をもたらしてくれている珪藻は、食物連鎖と物質循環に大きな影響力を持つ。そして、それは珪藻の細胞サイズに依存することが知られている。

最近、英・イースト・アングリア大学(University of East Anglia)の科学者は、珪藻細胞の大きさを調節する遺伝子を同定した。研究結果は2017年7月21日、ISME Journalに公開された。
https://www.nature.com/ismej/journal/vaop/ncurrent/full/ismej2017100a.html

珪藻類の細胞サイズは非常に多様であり、同じ種であっても環境や細胞周期によって変化する。珪藻細胞の大きさは、生理学と生態学の多くの面に影響を与える。例えば、大きい細胞ほど表面積/体積比が小さくなるため、効率よく栄養を取り込むことができない。その一方で、体積が大きいため、多くの栄養を細胞内の液胞に溜め込むことができる。また、大きな珪藻種は沈降速度が速いため、小さい珪藻種のように表層水で消費されることなく、深水層へ固定された炭素を運ぶことが出来る。このように珪藻類が食物連鎖と物質循環に果たす役割は細胞の大きさに強く依存するが、珪藻の細胞サイズを調節する遺伝子はこれまで解明されていなかった。

UEA大学.環境サイエンス.モック教授の研究チームは、珪藻の最も大きな特徴であり、珪酸質の被殻(frustule)と呼ばれる珪藻の細胞壁に当たる部分に注目した。珪藻の化石記録によると、被殻は1億8500万年以上前から出現していることから、研究チームは被殻が珪藻の進化過程において重要な役割を果たしていると仮定した。

被殻の中に存在し、被殻構築に関与すると思われるsilacidinと呼ばれるタンパク質の発現レベルを調節し、細胞の大きさへの影響を調べた結果、silacidinの発現レベルを低下させると珪藻細胞が大きくなることが分かった。また、silacidinをコードする遺伝子が、生態学的に重要ないくつかの他の珪藻類でも保存されていることが判明した。

この結果は、気候変動による食物連鎖に与える影響を理解する上で重要な意味を持つ。モック教授は『化石記録も、海水温度と珪藻の平均的な細胞サイズとの関係を示しているため、珪藻等の植物プランクトンの細胞サイズは、地球温暖化に応じて変化し続けると推測する。』と述べている。


参考資料:
Scientists find secret to cell size in world’s biggest food producer
https://phys.org/news/2017-07-scientists-secret-cell-size-world.html

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Diatoms through the microscope.jpg
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Diatoms_through_the_microscope.jpg