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医療現場における藻類の応用

医療現場における藻類の応用

2019年1月31日、英国のヘルスケア企業であるAdvanced Medical Solutions Group(AMS)が、2007年に設立したハイファを拠点とするイスラエルのスタートアップ企業であるSealantis社を2500万ドルで買収したことを発表した。Sealantis社では、様々な用途に対応する医療用の接着剤を開発している。

従来、外科手術において切開部の閉鎖には縫合糸やステープラーが使用される。しかし、縫合糸がアレルギーや感染の原因となるリスクがあるため、近年これらの代わりに外科手術用接着剤が開発された。縫合系で処置した場合と比較して処置時間が短くなり、組織に与える損傷も少ない。また、手術の痕が目立ちにくいという利点もある。さらに、縫合部からの出血や体液の漏出、肺部の手術における切断面からの空気漏れを防止する目的でも止血材やシーラント材として医療用接着剤が使用されている。

生体組織には接着阻害因子となる水分が常に多量に存在するため、医療用接着剤は強力な粘着力を持つことが必要不可欠であるが、既存製品にはまだ大きな課題が残されている。そこでSealantis社は、藻類が水中で岩石などに付着するメカニズムを技術に応用することで湿った生体組織でも付着性に優れた接着剤の開発に着手した。

Sealantis社は接着剤の成分に動物由来のタンパク質素材を使用せず、藻類由来のアルギン酸を使用している。生体適合性に優れ、かつ生体内での分解吸収が可能な材料であり、動物由来と比較して感染及びアレルギーのリスクを大幅に低減させることができる。さらに、製品は低温輸送・保存や使用前の解凍、加温、及び予備混合が不要で、すぐに使える状態に整えている。

Sealantis社は独自の技術プラットフォームをベースにして、様々な臨床ニーズに応じた外科手術用シーラント、組織接着剤、部位特異的ドラッグデリバリー製品の開発を行い、術後感染の発症予防や術後の早期回復につなげることを目指している。

Sealantis社が開発した製品の第一号は、血管吻合部からの出血に対して高い止血効果を持つ外科用シーラント「Seal-V」であり、2007年10月、EUの安全基準条件を満たすことを表示するCEマークを取得したことを発表した。Seal-Vの他にも、消化管手術での縫合不全による消化管内容物の腹腔内流出を防ぐのに有効な「Seal-G」という製品も出している。縫合不全は世界中で年間600万件以上も行われている消化管手術に発生頻度が高い合併症の一つであり、術後感染率及び死亡率の増加と高く関連している。発症すると入院期間が長期化し、患者1人当たり平均28,000ドルの追加費用が発生するというデータも報告されている。

このように医療現場で必要とされる外科手術用シーラントの世界市場は、年間10億ドルを超えている。

今回の買収により、AMSは製品開発能力を充実することとともに、医療製品(主に外科手術用)市場における事業の拡大を目指し、神経外科、整形外科、及び心臓血管外科への適応拡大を図っている。


参考資料
http://www.sealantis.co.il/
https://www.jpost.com/HEALTH-SCIENCE/Algae-based-medical-adhesive-start-up-Sealantis-acquired-for-25m-579326
http://nocamels.com/2013/11/israeli-company-imitates-algae-to-close-internal-incisions-efficiently/

この記事を書いた人

台湾出身、2010年来日。東京大学大学院農学生命科学研究科にて博士号を取得後、ちとせ研究所に入社。ライフサイエンスに幅広く興味を持ち、生物の力を最大化に生かし人類の生活・環境へ貢献できるように努力している。周りに影響されることなく自分軸のある人生を歩む、中国語、英語、日本語の三ヶ国語を操るトリリンガル。

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