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卵代替品市場に藻類が参入

卵代替品市場に藻類が参入

旅行の計画を立てる際、私はいつも「どこで、何を食べるか」を考えることから始める。その土地ならではの料理を楽しむことは、私にとって旅行で一番の楽しみといっても過言ではない。なぜかというと、景色については事前に写真などを見れば大体イメージすることができるが、料理についてはどんな味なのかをビジュアルから想像することが難しく、期待と喜びでワクワクする一方で不安も感じたりと、複雑な気持ちにさせてくれるからである。そうは言っても、海外旅行の場合、滞在時間が長くなると米が恋しくなる。あつあつのご飯の上に生卵をかける、あの至福の瞬間がたまらない。

ところで、世界で一番卵を食べている国は日本だということをご存知だろうか。日本人一人当たりの卵の年間消費量は平均320個であり、ほぼ1日1個食べている計算になる。海外では珍しい、生卵を食べるという日本特有の文化もその原因の一つかもしれない。
しかし、そんな身近な存在である卵が、今後もしかすると簡単に手に入らなくなるかもしれないのである。

卵は完全栄養食品ともいわれるくらい、人間にとって健康を維持するために必要な栄養素を豊富に含んだ手軽に摂れる良質なタンパク質源である。そのため、今後世界中でのタンパク質の需要拡大に伴い、供給が間に合わなくなる可能性がある。また他にも、鳥インフルエンザによる卵不足の危機や卵の生産コストの上昇、動物由来製品の摂取に反対する消費者の増加などが原因で、今後は植物由来で作られる、卵の代替品の需要が急拡大していく見込みである。2017年11月23日に発表された市場調査報告によると、世界の卵代替品市場は、2017年から2022年にかけて5.7%の年平均成長率で増加し、2022年には11億1500万ドルに達すると予測されている。

実は、そんな卵代替品市場に藻類も参入しているのである。

2015年末に世界初の藻類を原料とした植物性卵ヴィーガンエッグ(VeganEgg)が発売された。開発したのは、1970年に南カリフォルニア州にあるレストランとして始まったヴィーガン食品メーカー「フォロー・ユア・ハート(Follow Your Heart)社」である。同社は1977年に卵や乳製品を一切使用しないマヨネーズの代用品、ヴィーガネーズ(Vegenaise)の発売以来、ヴィーガンチーズやサラダドレッシングなど様々なヴィーガン食品を開発してきた。

New & Improved VeganEgg

What happens when one of your key ingredients is no longer available? You pivot and find a way to make your product even better! When the news hit that our algal ingredient supply would be going away, we went back to the kitchen and found a way to deliver more protein while keeping the same great taste and texture that we’ve all come to love.

4個入り卵ケースをイメージしたパッケージに入るパウダー状のヴィーガンエッグの原材料には、藻類パウダー、藻類たんぱく質、セルロース、ジェランガム、カラギーナン、植物由来の乳酸カルシウム、食塩が使用されている。パウダーは薄い黄色だが、これは暗所で藻類を培養することによって自然に色づくようだ。使用方法も簡単で、冷水を混ぜてフライパンで焼くとスクランブルエッグやオムレツといったシンプルな卵料理が作れるのはもちろんのこと、ケーキなど卵を使った料理全般に使えるのだ。

食べた人の感想をみると、見た目はもちろん、味や匂いまで卵そっくりだという声が多数寄せられている。通常の卵と比べると、ヴィーガンエッグはコレステロールフリーで、ヘルシーな脂肪成分、食物繊維と微量栄養素を多く含んでおり、カロリーは約半分だ。残念ながら、藻類原料入手が困難のようで、現在リニューアルされた新商品は代わりに大豆を使用している。

2017年12月には、卵の代わりに世界初藻類タンパク質を使用した植物性マヨネーズ「ザ・グッド・スプーン」が発売され、プレーン、カレー、チリ、ガーリックの4つのフレーバーが販売されている。ザ・グッド・スプーンを開発したのは、2013年にパリに拠点を構え、微細藻類を使用した食材の開発に注力している仏米スタートアップのアルガマ社(Algama)である。アルガマ社は、「微細藻類といえば健康食品やサプリメント」という既成概念を覆し、手軽で持続可能な一般食品原料としての藻類の応用を展開している。

The Good Spoon | Gourmet Eggless Condiments

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アルガマ社の、卵の代わりにクロレラを使ったマヨネーズは、風味、口当たり、色ともにマヨネーズそのもののようで、脂質含量が従来のマヨネーズ製品の半分以下に抑えられているが、その一方で賞味期限が半年(従来のマヨネーズの4分の1程度)しかないという欠点がある。そのため、賞味期限を伸ばすことが今後の課題である。また、他の卵フリー製品への応用展開も視野に入れている。

2014年に発売された、同社の最初の製品である「Springwave」は、スピルリナ由来のサプリメントドリンクであり多数の賞を受賞していたが、味と商品安定性の課題があり、発売してから2年後に一時販売休止となった。それから2年に渡る品質革新活動が終了を迎えて、2019年に青色の飲料のSpringwaveを再発売することを目指し、現在積極的にパートナーを探しているようである。

藻類による卵代替食品を食生活に普及させるには、安全・安心な藻類原料を安定的に安価で供給することが現在の最も大きな課題である。そのため、我々は藻類大量培養の研究開発に注力し、近い将来、藻入りの卵代替品を手軽に楽しめる日が来るのを期待している。


参考資料
https://www.worldatlas.com/articles/countries-that-consume-the-most-eggs.html
https://www.foodnavigator.com/Article/2018/09/24/The-Good-Spoon-swaps-eggs-for-chlorella-to-democratise-microalgae
https://www.foodnavigator-usa.com/Article/2018/07/05/Algama-is-using-microalgae-to-disrupt-how-food-is-made-starting-with-mayo
https://thegoodspoonfoods.com/
http://www.algaeindustrymagazine.com/algae-based-veganegg-debuts/
https://followyourheart.com/

この記事を書いた人

台湾出身、2010年来日。東京大学大学院農学生命科学研究科にて博士号を取得後、ちとせ研究所に入社。ライフサイエンスに幅広く興味を持ち、生物の力を最大化に生かし人類の生活・環境へ貢献できるように努力している。周りに影響されることなく自分軸のある人生を歩む、中国語、英語、日本語の三ヶ国語を操るトリリンガル。

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