一般的に植物性脂質といえばパーム油や大豆油が広く知られていますが、植物の祖先に当たる藻類も細胞内に脂質をため込む性質をもっています。藻類から作られる脂質は、大きく油脂、糖脂質、リン脂質および炭化水素に分けられます。今回は藻類全体が脂質分野で注目される理由についてまとめていきます。
※脂質、油、脂肪といった言葉の定義について詳しく知りたい方は、下記連載をご覧ください。
藻類は脂質生産性が高い
とりわけ注目を集めている藻類の脂質は油脂です。藻類の油脂蓄積量は、平均的には10~30%程度、多い種では50%以上にも上ります。主な藻類種における脂質の割合は、『食品分野における藻類の利用』に示されているので、併せてご覧ください。
単細胞の藻類では、藻全体が油脂源となり、数時間~数日で分裂・増殖をします。藻類に寿命はありません。比較としてパームオイルの原料植物のパームヤシを挙げると、定植からオイルの含まれる果実が収穫できるまでに約3年かかり、数カ月~1年に一度の収穫しかできません。また、パームヤシは25~30年で植え替えなければなりません。
藻類と高等植物の油脂生産性の比較/中原(ちとせ研究所)作成
上記のグラフは、藻類と植物の年間の油脂生産性の比較のグラフです。成長速度や油脂含有率を考慮した実質の生産性を表しています。油脂含有率の低い藻類(油脂含量10%)でもパームと同等、油脂含有率が平均から高い藻類(油脂含量30%、50%)なら3~5倍にものぼります。このように藻類の油脂生産性は、現在地球上に存在する全ての生物の中で最も高いため、油脂を含む脂質原料として有望視されているのです。
藻類は脂質の種類が豊富
脂質生産性の高さに加え、藻類は生成できる脂質の種類が豊富であることが特徴です。藻類の種類、同一種内の株ごと、また培養方法によっても、藻類の作る脂質の組成や含有率は様々に変化します。これは逆に考えると、藻類種や培養方法を選択することで、自由自在に目的の脂質を生産することが可能だという事です。
様々な藻類の脂質(脂肪酸)組成(%)/筆者作成
※脂肪酸の表記は炭素数と二重結合の数で特徴を表します。例えば、「22:6(DHA)」は、22個の炭素が直鎖状に結合し、また炭素間の結合には二重結合が6個含まれて、名称はDHAという脂肪酸という事を表現しています。二重結合がない脂肪酸を飽和脂肪酸、二重結合(場合によっては三重結合)をもつ脂肪酸を不飽和脂肪酸といいます。
上記の表は、脂質の一例として、様々な脂肪酸の組成を示しています。
植物と藻類の脂肪酸組成の共通点は、炭素数16の脂肪酸を多く含んでいることが挙げられます。植物と藻類の違いは、藻類の脂肪酸は多様性に富んでいることです(炭素数の種類が多いこと、二重結合をもつ不飽和脂肪酸が多いこと)。各々の藻類には各々に特徴的な脂肪酸組成をもっています。脂肪酸に関わらず、脂質全体をみても藻類の脂質には多様性があります。
油脂
上:油脂原料として利用される藻類/筆者撮影、下:藻類に含まれる脂肪酸の構造式 /筆者作成
油脂原料として利用されている藻類の一例としては、ナンノクロロプシス、ラビリンチュラがあります。この2種はω3不飽和脂肪酸のEPAやDHAを含む油脂が豊富であり、健康食品用途で多くの商品が販売されています。
また、クロレラの一種では、不飽和脂肪酸のオレイン酸の生産が可能な遺伝子組み換え藻類が作られています。このクロレラから抽出された油脂は、椿油などの植物油の代替として販売されています。
炭化水素
左:炭化水素原料として利用される藻類ボツリオコッカス/筆者撮影、右:ボツリオコッカスに含まれる炭化水素ボツリオコッセンの構造式(Okada et al. 2000改)
油脂だけでなく、ボツリオコッカスの作る炭化水素ボツリオコッセンも商品化されています。ボツリオコッセンは、鮫の肝油から抽出される希少な炭化水素・スクワレンに構造が酷似していて、かつ同様の性質であることも明らかにされています。
最後に
脂質生産性が高く、そして脂質組成が豊富であるという藻類の特徴は、脂質源として非常に大きな可能性を秘めています。バイオ燃料として藻類が注目を集めているのも、これらが理由の一つです。他にも、藻類脂質を石油代替としてバイオプラスチックなどの化成製品の原料にする試みも行われています。Modia内で藻類脂質を使った製品を紹介する機会も、今後ますます増えていくと思います。
参考資料
・Okada, S., Devarenne, T. P., & Chappell, J. (2000). Molecular characterization of squalene synthase from the green microalga Botryococcus braunii, race B. Archives of biochemistry and biophysics, 373(2), 307-317.
・http://www.ipc.shimane-u.ac.jp/food/kobayasi/hikaku7_2007.html
・Chacón‐Lee, T. L., & González‐Mariño, G. E. (2010). Microalgae for “healthy” foods—possibilities and challenges. Comprehensive reviews in food science and food safety, 9(6), 655-675.
・Yokochi, T., Honda, D., Higashihara, T., & Nakahara, T. (1998). Optimization of docosahexaenoic acid production by Schizochytrium limacinum SR21. Applied Microbiology and Biotechnology, 49(1), 72-76.
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