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油にまつわる言葉の整理 第1回 -油、脂質、脂肪とは-

油にまつわる言葉の整理 第1回 -油、脂質、脂肪とは-

「藻類バイオ燃料」
「DHAやEPAに代表されるオメガ3脂肪酸」
「βカロテンやアスタキサンチンといった抗酸化物質・色素・カロテノイド」
「パームオイルや菜種油に対応するような、藻から取れる油脂」

これらの話をする場合、藻類に含まれる「あぶら」が議論の対象となります。オイル、油、脂、脂質、脂肪等、人によって様々な言葉が使われますが、意図的であろうとなかろうと、言葉の誤用・勘違いによる誤解が後を絶たないように感じます。そこで、人々が言う「あぶら」とは一体何なのか、数回に分けて簡単に整理していければと思います。

「油」とは

まず、これらの言葉の中で最も大きな範囲を定義する言葉が「油」です。
三省堂大辞林によると、「油」とは、

動物の組織や植物の種子あるいは石油・石炭などの鉱物から抽出される、水に溶けにくく燃えやすい物質。食用・灯火、減摩剤・燃料など多くの用途がある。

とあります。一方、英辞典ではどう記載されているでしょうか。一般に、日本語の「油」に相当する英単語として「oil」が使われます。Oxford English Dictionaryによると、「oil」とは、

A viscous liquid derived from petroleum, especially for use as a fuel or lubricant. (石油から得られる粘性の高い液体、特に燃料や潤滑油として利用される)

(With modifier) Any of various viscous liquids which are insoluble in water but soluble in organic solvents and are obtained from animals or plants. (~オイルと呼ぶ場合、水に不溶、有機溶媒に可溶な、動植物由来の粘性の高い液体を指す)

と記載されております。

日本語の「油」と英語の「oil」の間に、多少定義の差がありますが、
「油(oil)」=「由来を問わず、水に溶けない(もしくは溶けにくい)、燃えやすい物質」
と認識しておけば大きな問題はないかと思います。

「脂質」とは

一方、同じく非常に広範囲を定義する言葉に「脂質」もしくは英語の「lipid」があります。日本語の「脂質」と英語の「lipid」の定義の間に大きな違いはありません。

三省堂大辞林によると、「脂質」とは、

生体内に存在して、水に不溶、有機溶媒に可溶の有機化合物の総称。脂肪酸と各種アルコールとのエステルである単純脂質 (中性脂肪あるいは油脂、蠟)、脂肪酸・アルコール・リン酸・糖などから成る複合脂質 (リン脂質、糖脂質など)、および以上の二者の加水分解生成物で水に不溶の物質 (脂肪酸・高級アルコール・ステロール) やテルペン・脂溶性ビタミンなどの誘導脂質に分類される。

と定義されています。

「脂質」=「生き物の体内にある、水に溶けないけど有機溶媒には溶ける有機化合物」と認識しておけば大きな問題はなさそうです。つまり、脂質(lipid)と油(oil)の大きな違いは、生き物の体内に存在するものかどうか、と、燃えやすさについて言及されているかどうか、にあります。藻類由来のバイオ燃料等を語る場合は「油」と「脂質」のどちらの言葉を用いても特に大きな問題はないことになります。

「脂肪」とは

「油」や「脂質」と同じような感覚で使用される言葉に、「脂肪」があります。この齢になると、頼んでないのに体中の至るところにくっ付いてくるアレのことです。みなさんも日常生活でよく使用する言葉だと思います。

三省堂の大辞林によると、「脂肪」とは、

脂肪酸とグリセリンのエステル (油脂) のうち、常温で固体のもの。生物体に含まれる。動物では、皮下・筋肉・肝臓などに貯蔵され、エネルギー源となる。

「脂肪」は、しばしば「fat」と英訳されます。英辞典Oxford English Dictionaryに拠ると、「fat」は、広義には

A natural oily substance occurring in animal bodies, especially when deposited as a layer under the skin or around certain organs. (動物の、特に皮下や生体組織周辺に層として蓄積される自然の“あぶら”っぽい物質)

狭義には、化学用語として、下記の様に記されています。

Any of a group of natural esters of glycerol and various fatty acids, which are solid at room temperature and are the main constituents of animal and vegetable fat. (室温で固体であり、動物Fat や植物Fatを構成するグリセロールと脂肪酸がエステル結合した物質の総称)

「fat」という語句の定義文の中に「fat」という言葉が出てくることに、疑問を感じますが、それはさておき、日本語の「脂肪」と英語の「fat」の間には多少の差はありますが、どうやら「脂肪」=「油脂と呼ばれる、脂肪酸とグリセロールがエステル結合したもの(もしくはその内、常温で固体なもの)」ということになります。

なんだか急に複雑になってしまいました。

日常でよく使う「脂肪」という言葉の定義に、突然、「油脂」、「脂肪酸」、「グリセロール」、「エステル結合」といった、非日常的な化学の言葉が現れてきます。普通に日常生活を送っていると、おそらくこの辺りでギブアップ、これ以上の詮索は理解が及ばないと諦めてしまう人が多いのではないでしょうか。この辺りが混乱を生じる原因になるのかなと思います。

さて、今回は「油」、「脂質」、「脂肪」といった大きなカテゴリーの言葉について整理していきましたが、次回は「脂肪酸」、「油脂」といった少し範囲の狭まった言葉について紹介していきます。今回同様に、なるべく簡単に紹介していきますので、次回もぜひご覧ください。

油にまつわる言葉の整理 第2回 -脂肪酸、油脂とは-

この記事を書いた人

ちとせ研究所所属。東京大学農学部卒業後、アリゾナ大学生物システム工学科にて博士号を取得。その後同大学にて微細藻類バイオマス大量生産を目的としたフォトバイオリアクターの開発・研究に携わる。2015年、13年間の米国生活からとうとう帰国し、真面目に社会人化。光合成でモノをどんどん増やすことに興味のあるアンパンマンに憧れる中年。

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