水中に生息している藻類は、水圏における食物連鎖のなかで太陽エネルギーを吸収できる生産者の立ち位置として重要です。水産分野でもその役割は変わりません。今回は、水産分野における藻類の利用についてご紹介していきます。

※なお、本記事に用いる「藻類」は微細藻類を指します。海藻は含みません。

世界の水産業界の流れ

上図は、最新の世界の漁獲量と養殖生産量の変遷の図です。天然の魚介類の漁獲量は1990年代より最大持続生産量(資源量を減少させず持続的に達成できる最大の漁獲量)に達しているため、既に漁獲制限がかかっています。その影響もあり、世界の魚介類の養殖生産量は年々増加しています。この養殖業界において、現在藻類は注目を集めています。

Modiaでも以前より水産業界についての記事を紹介してきました。


水産分野における藻類の役割

水中の生態ピラミッドの最下層(生産者)に位置する藻類は、動物プランクトンや魚などのエサとなって生態系を根本から支えています。それより上の層に位置している天然の魚介類は、水中の藻類または藻類をエサとした動物プランクトンや小魚等を食べて成長しています。

人工的に生産する養殖においては、成魚生産(稚魚→幼魚→成魚と、ある程度大きな魚を扱う)は人工飼料を使用することで効率の良い生産が可能です。一方で、種苗生産(卵→仔魚→稚魚と、小さな魚を扱う)は、魚の口が小さいため人工飼料を使用することができません。そのため、生きた動物プランクトン(ワムシアルテミア)がエサとして利用されています。そして、この動物プランクトンのエサに必須なのが、藻類なのです。

海産魚の養殖における種苗生産と成魚生産 / 中原作成

藻類の水産餌料

一般的に魚介類にはDHAやEPAが豊富に含まれているというイメージがありますが、実は魚介類にはこれらを合成する力はありません。DHAやEPAを含む藻類をエサにすることで、魚介類にはそれらが蓄積されるのです。

水産餌料に利用される藻類には、ω3不飽和脂肪酸のDHAやEPAを細胞内に豊富に含む藻類が好まれます。さらに、藻類にビタミン補強などの栄養強化をすることで、その藻類餌料を与え育てた動物プランクトンを介して稚魚の生存率が上昇したり、奇形の出現率が低下するという研究が報告されています。養殖の生産量上昇には、より良い稚魚の質、量が求められます。こうした中で、藻類餌料は重要な要因となってくるのです。

水産餌料用途として利用されている種の多くは、先に述べた通りDHAやEPAを生産する能力が高い、海産性もしくは海水で生育できる藻類です。代表的な種には以下の藻類があります

水産餌料に用いられている藻類/筆者作成

藻類分野における藻類の将来性

藻類の水産餌料は、種苗生産時におけるワムシや甲殻類・介類の幼生時の養殖に限られるため、現在の市場規模は大きくはありません。しかし、藻類の他に適した代替餌料が存在しないため、藻類餌料は安定した需要を望むことができます。

世界的な魚介類の養殖生産量の伸びからも、将来的にこの分野は全食料分野の中でも最も高い成長率をみせると考えられています。そして、養殖方式についても、現在一般的な成魚生産のみを行う「一般養殖」から、種苗生産から成魚生産まで行う「完全養殖」にシフトしていく事が見込まれています。よって、種苗生産の拡大に伴い、種苗生産に必須な藻類餌料の市場規模は確実に伸びていくことが期待できます。

藻類餌料生産は、生餌という商品の特性上、安価な大量生産品で市場が独占される状況は起こりにくい分野です。単価が比較的高いため小規模でも事業性を見出しやのが特徴です。藻類餌料生産事業は、様々な藻類事業のなかでも、スタートしやすい事業となっています。


 

顕微鏡写真
クロレラ(chlorella)・ナンノクロロプシス(Nannochloropsis)・キートケロス(Chaetoceros)-筆者撮影
イソクリシス(Isochryis galbana)- https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Isochrysis_galbana.jpg
フェオダクチラム(Phaeoductylum tricornutum)- https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%A4%E3%83%AB:Phaeodactylum_tricornutum.png
パブロバ(Pavloca lutheri)- https://commons.wikimedia.org/wiki/File:CSIRO_ScienceImage_7604_Microalgae.jpg
テトラセルミス(Tetraselmis sp.)- Arora, M., Anil, A. C., Leliaert, F., Delany, J., & Mesbahi, E. (2013). Tetraselmis indica (Chlorodendrophyceae, Chlorophyta), a new species isolated from salt pans in Goa, India. European journal of phycology, 48(1), 61-78.

サムネイル画像
Landing the catch at dawn Sri Ratcha” ©2008 SeaDave/CC BY 2.0