「ナンノクロロプシス」と一般的にいわれる藻類は、真正眼点藻綱のナンノクロロプシス属(Nannochloropsis)に所属する一群です。ナンノクロロプシスはω3不飽和脂肪酸のEPAを細胞内に蓄積することで注目を集めています。
1.ナンノクロロプシスとは
左図:ナンノクロロプシスの顕微鏡写真、右図:系統樹ナンノクロロプシス/尾張作成
ナンノクロロプシスは、真正眼点藻綱、ユースティグマトス目、ユースティグマトス科、ナンノクロロプシス属に所属する一群です。非常に小さい球形の単細胞藻類で、体長は2〜5μmです。葉緑体は緑色をしていて、細胞の形態は緑藻綱のクロレラと似ていますが、「真正‘眼点‘藻綱」とその名が示す通り、細胞内に赤い眼点があるのが特徴です。また、「海産クロレラ」ということもあります。細胞の重さの50%を超える油脂を蓄積することから、油脂生産藻類とし活用されています。Nannochloropsis oculata、Nannochloropsis gaditanaが主に利用されています。
2.ナンノクロロプシスが生産する「EPA」
EPAの構造式
EPA(エイコサペンタ塩酸)は5つのシス型二重結合をもつ20炭素のカルボン酸です。構造式のω3位(脂肪酸のメチル末端から3番目の結合の意味)に二重結合をもつ脂肪酸であるため、ω3不飽和脂肪酸といわれます。
同じω3不飽和脂肪酸のDHA(ドコサヘキサエン酸)に比べるとEPAの認知度は低いです。しかしDHA同様に人に対する生理活性については世界的にエビデンスが整ってきていて、現在は主に医薬品及び機能性食品として利用されています。一般的にEPAは魚介類に豊富に含まれるというイメージがありますが、これはEPAを含む藻類等をエサとして魚介類が摂取して蓄積するからです。
2.油脂業界の利用
様々な藻類の脂質(脂肪酸)組成(%)/尾張作成
ナンノクロロプシスはEPAの他にも様々な脂肪酸を作ります。油脂業界で利用される場合は、ナンノクロロプシスからEPAを抽出して、精製します。ナンノクロロプシス由来EPAは医療用原体として利用することが進められていますが、現在は医療用原体よりも精製度が低い健康食品原料として販売されています。
DHAが脳や神経への影響を訴えるのに対し、EPAは血液に働きかける効果を持ちます。「血液をサラサラにする」「中性脂肪値を下げる」「血管年齢を若く保つ」「心臓病・脳梗塞を防ぐ」「動脈硬化を防ぐ」といった文句が謳われています。
【市場動向】
- 市場規模:世界のω3生産量が年間約8.6万トン(2014年時点)。このうち2 %(1,725トン)が医療用原体として利用される。売上ベースでは全体の30 %(600億円程度)と予測されている。
- 平均原料価格:魚油由来で食品グレードのEPAは、18-28 %でのkgあたりの原料単価は、2,000〜6,000円ほどである。DHAの例を取ると魚油由来の3倍ぐらいの値段になると推測される。
- ナンノクロロプシスは有機溶媒で抽出、脱色、精製され、最終的に25-30%の濃度のEPAを含有するオイルまたは粉末として販売されている。
- 現在の医療用原体用途のEPA原料は魚油由来であり、微細藻類由来のものはまだない。医薬用原体として利用するためには96.5%以上の純度が必要となるため、高度に精製されている。
3.食品業界の利用
食用として利用されている、または研究開発が進行中の藻類の栄養素組成 / 尾張作成
ナンノクロロプシスはタンパク質、炭水化物、脂質のバランスのとれた食品といえます。加えてEPAや様々な油脂を含有し、ビタミンB12を含むため、抽出や精製をしなくてもナンノクロロプシスそのものが健康補助食品として利用できます。
【市場動向】
- 海外勢数社がサプリとして魚油の代わりに微細藻類由来のEPAを進めている。
- Qualitas Healthが微細藻類由来のEPAを含有した健康補助食品を販売開始した。魚油由来のものと異なり、リン脂質型のEPA含有量が多い。
4.水産業界の利用
一般的にEPAは魚介類に豊富に含まれるというイメージがありますが、魚介類にはこれらを合成する力はありません。EPAを含む藻類をエサとして食べるため、魚介類にはEPAが多いのです。
ナンノクロロプシスはEPAおよびビタミンB12を多量に含むため、水産業界では餌料価値が最も高い種です。海産種苗生産機関において、シオミズツボワムシの大量培養用餌料あるいは栄養強化を目的とした二次培養用餌料として大量生産されています。
【市場動向】
- 市場規模(年間):2億円 (国内のみ)。
- 平均原料価格 :16,000〜48,000円/kg(乾燥重量ベース)。
- 年間流通量 :推定90トン(20L×4,500パック)
<最後に>
EPAを生産するナンノクロロプシスは、今後市場形成による認知度向上にあわせて、徐々に一般消費者へも浸透していくものと予測されます。是非覚えておいてください。
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