一部の生物は、二酸化炭素から様々な有機物を合成して生きている。二酸化炭素のような反応しにくい物質を基質にして合成を行うためには、なんらかのエネルギーが必要であり、藻類や植物はそのエネルギー源として太陽の「光」を利用する。「光」を利用して合成するので「光合成」と呼ばれている。

畑の肉とも呼ばれる大豆は、「光合成」で作るタンパク質だ。また、近い将来訪れると言われているタンパク質危機(Protein Crisis)に備えて注目が集まる藻類も、「光合成」でタンパク質を作る。

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今回、エネルギー源として「光」ではなく「電気」を使い、微生物にタンパク質を合成させたという報告をしたのはフィンランドのLappeenranta University of Technology (LUT) とVTT Technical Research Centre of Finlandのチームだ。

「電気合成」でタンパク質生産

彼らのチームは電気と二酸化炭素を使って微生物を育て、その育てた微生物をタンパク質源として、食料や飼料に利用しようとしている。「光合成」ならぬ、「電気合成」によるタンパク質生産だ。このシステムを用いれば、電気さえあれば、世界のどこででもタンパク質を生産することができる。つまり、環境条件に依存しないで食料生産ができるようになるのだ。

VTTの主席研究員であるJuha-Pekka Pitkänenは
「事実、すべての原料は空気中から取り出すことができるのです。将来この技術は、例えば飢餓に直面している地域や砂漠などで使うことができるようになるでしょう。一つの可能性として、消費者が必要なタンパク質を生産する家庭用の装置としての応用もあるでしょう。」
と述べている。

光合成の10倍のエネルギー効率?

この電気を利用したタンパク質生産の効率は、光合成と比べて10倍近くになるというが、現在は1gのタンパク質生産にコーヒーカップほどの実験設備を利用して約2週間かかるということなので、まだまだ発展途上ではありそうだ。研究者が目指している次のステップは、パイロット生産を開始し、食品や飼料の開発に十分な量の原料を製造することだという。

「我々は現在、リアクターの概念、技術、効率の向上、プロセスの制御といった技術の開発に注力しています。プロセスの制御には、微生物を可能な限り多く生育させるための再生可能エネルギーの調整や、モデリングが含まれています。このアイデアを大量生産に発展させ、技術がより一般化していくにつれて価格も下がっていきます。商業化のスケジュールは経済に依存します」
とLUTのJero Ahola教授は述べている。

タンパク質量は50%

この電気で育てた微生物には、50%のタンパク質と25%の炭水化物が含まれており、残りは脂質と核酸で、非常に栄養価が高いという。また、栄養価については生物種を変えることで変更できるという。

太陽光の代わりに電気を使う以外は、藻類と似たコンセプトを持った研究であり、とても興味深い。藻類の場合は、太陽光を使えることがメリットだが、デメリットとして太陽光が出ていないときは育てられないので、生育状況が天候に左右される。一方、電気微生物の場合は、太陽光がなくても電気さえ通電していれば育てることができるので、安定した生産ができるところがメリットとなる。太陽光が得られにくい地域などでの食料生産の手段としては面白そうだ。あとはどれくらいの効率まで持っていけるかの勝負であろう。

アカデミック寄りではあるが、日本でも同様の研究が行われている。

「電気で生きる微生物を初めて特定」理化学研究所・東京大学(2015年)
http://www.riken.jp/pr/press/2015/20150925_1/

電気が光と化学物質に続く地球上の食物連鎖を支える第3のエネルギーであることを示した、非常に意義のある研究成果であり、これからさらに注目されていくべき分野だと思う。


参考資料:
Protein produced from electricity to alleviate world hunger
https://www.lut.fi/web/en/-/protein-produced-from-electricity-to-alleviate-world-hunger