ここ数年、私が注目しているのが世界のタンパク質生産の動向である。というのも、人の体は水分を除外すると60%がタンパク質でつくられており、もっとも基盤となる栄養素だからである。

我々のカラダは60兆もの細胞から成り立っているが、日々億単位以上の細胞が新たに生まれ変わりながら生命を維持している。このため、これらの細胞の主要構成要素となるタンパク質は常に外部から一定量を補給しなければならない。

人が1日に必要なタンパク質は、ざっくりいうと体重の1/1000といわれている。例えば体重が50kgであれば50gとなる。タンパク質は脂肪と異なり、体内に蓄積しておくことができないため、毎日新たに取り続けなければならない。現在の世界の人口を70億人として、1人当たりの平均体重を50kgと仮定した場合、年間約1.3億トン(1日あたり36万トン)のタンパク質の供給が最低でも必要な計算となる。

現在の人口増加ペースが続くと、全世界の人口は2050年に90億人を突破すると予想されている。この人口の増加に加え、新興国のGDP増加による食生活の向上(肉食化)によって、2050年には2005年時のタンパク質の2倍の供給量が必要になる。これまでは農業の生産性の向上によって年々増大するタンパク質需要に対応できてきたが、今後はその伸びだけでは吸収できなくなり、早ければ2030年頃には需要と供給のバランスが崩れ始めると予測されている。この予測は『タンパク質危機(protein crisis)』と呼ばれ、最近欧米を中心に注目され始めてきている。すでに欧州では[Protein challenge 2040]* というテーマでコンソーシアムができ始め、その中から幾つものプロジェクトが動き始めている。

タンパク質の需要と供給 / 筆者作成

さて、人類にとってのタンパク質の重要性について理解していただけたと思うが、現在の人類は年間1億トンを超える大量のタンパク質をどこから得ているのだろうか。魚や肉と考えるのが一般的だと思うが、さらに思考を一歩進めてそれら魚や肉を生産するための餌の段階にまで遡ると、『魚粉(動物性タンパク質)』と『大豆(植物性タンパク質)』が世界の2大タンパク質源となっていることが見えてくる。次にこの2大タンパク質源について少し説明したい。

魚粉  -世界の2大タンパク質源①-

魚粉というのは、海で捕られるカタクチイワシなどの小魚を乾燥して粉末にしたものである。魚粉はタンパク質含有量が60%以上と高く、アミノ酸組成に優れていることから、主に養殖用の飼料として重宝されてきた。しかし、2000年に700万トンあった魚粉生産量は、2010年に入ってからは450万トン前後で推移している。また、世界第1位の魚粉生産量を誇るペルーでは、資源保護と価格安定を目的に漁獲調整をしており、これ以上の魚粉の増産は期待できないというのが現実である。つまり、これ以上自然界からの漁獲高を増やすと自然の回復力では回復できないレベルになってしまうため、漁獲量を制限している状態なのである。その一方で、世界の魚需要は年々増加しており、その増加分は水産養殖の拡大によって賄われている。この水産養殖の拡大に伴って、魚粉に対する世界的需要も年々増加しているのが現状である。

世界漁業・養殖業白書2016より抜粋

より詳しく世界の漁業・養殖業の現状を把握したい場合は、以下のFAOがまとめているレポートの要約版を参考にしていただきたい。
世界漁業・養殖業白書2016

養殖飼料としての魚粉需要高まりに対し、上述した背景からこれ以上の増産が期待できず、魚粉代替タンパク質源が今後求められていくことをまとめたレポートが、三井戦略研究所からも出ている。興味のある方は参考にして頂きたい。魚粉代替となる新タンパク源には大きな事業機会が眠っていることもよくわかる。
養魚飼料原料の多様化が創出する新たな事業機会と課題

ちなみに「魚粉のもとになっている小魚の餌ってなんだ?」 と遡っていくと、最後は植物プランクトン(=藻)にたどり着く。光合成で増えた藻を動物性プランクトンが捕食し、動物性プランクトンを小魚が食べ、人間が捕まえるという食物連鎖となっている。

大豆  -世界の2大タンパク質源②-

もう一方のタンパク質源である大豆は、日本人には食品として馴染み深い食材だ。世界的にみると1960年代3,000万トンにも満たなかった大豆の生産量は、2015年には3.2億トンと10.7倍と大きく増加している。この増加率は他の穀物(小麦3.1倍、米3.2倍、とうもろこし4.9倍)の増加率と比較しても圧倒的に高い。

この大豆の驚異的な増加率は、コメや小麦が「主食用」として人に直接摂取されることが多いのに対して、大豆が家畜の「餌」として「飼料用」に用いられることが多いことに由来している。実に大豆の7割は飼料用途で利用されていると言われている(食利用は1割程度)。世界中で生産された大豆の大部分は、牛乳、卵、チーズ、フライドチキン、ハム、ステーキ、アイスクリーム、、といった製品に姿を変え、間接的に我々の体に取り込まれていると言えよう。そんな世界の大豆生産と消費の現状については、以下の農水省の特集ページにわかりやすく記載されているので参考にしていただきたい。

農林水産省/特集1 大豆(1)

タンパク質源として生産量の増加が続いている大豆であるが、その増加は栽培面積の拡大に依存している。特に近年、南米での大豆生産量が激増しているが、これらは熱帯雨林を切り開いて大豆畑を拡大しているためである。

大豆生産国1位であるブラジルの国立宇宙研究所(INPE)は、2017年2月15日に過去1年間におけるアマゾン熱帯雨林の観測状況を発表した。INPEの調査は、2015年9月から2016年8月までの12カ月間行われたが、同期間に3100平方マイル(約8000平方キロ)もの森林が消失したと報告している。また、同地域における熱帯雨林の消失速度が過去5年比で約30%加速していることも明らかにした。消失した森林のほとんどが、牧場や大豆畑などに変えられたとしている。この報告からも、現在進行形で大豆生産拡大による熱帯雨林消失が進んでいることが分かるであろう。

アマゾンは河川流域として地球最大の面積を誇り、世界の河川から海に流れ込む総水量の6分の1がここに源を発している。アマゾンの熱帯雨林は炭素の巨大な貯蔵庫としてだけでなく、降雨パターンの変化にも大きく影響するなど、地球の気候に対して極めて大きな役割を果たしている。気候モデルの予測によれば、アマゾンの熱帯雨林減少の影響は 南北アメリカにとどまらず、遠く離れた世界中の農業地域にも干ばつと不作をもたらす可能性がある。世界の気候変動のバッファーとして機能している以上、アマゾン熱帯雨林の減少は、日本の我々には関係ない、ということで済ませられる話ではないのだ。

このため、大豆についても魚粉同様、熱帯雨林の資源保護を目的とした世界的な生産調整を行っていかなければ、取り返しのつかないことになるだろう。このような状況を踏まえて、ブラジル政府も2016年から新たな対策を打ち出している。また、近年では、投資家がサステナビリティと気候変動リスクをこれまで以上に重要視し、大手グローバル企業に対して森林破壊などの森林への負荷を減少させるよう働きかける傾向がある、という分析結果も出ている。大豆生産拡大に伴うアマゾンの熱帯雨林の破壊にも、今後厳しい社会の目が向けられていくことだろう。

世界の大豆生産の現状についてより詳しい情報を知りたい方は、少し古い(2014年)が以下に公開されているWWFの資料がよくまとまっているので参考にしていただきたい。
拡大する大豆栽培 -影響と解決策-

このように世界の2大タンパク質源である魚粉と大豆が、主に環境面からの制約によって今後の生産が制限されていく中で、果たして人類はどのようにタンパク質需要の増加に対応していくべきか。魚粉、大豆に代わる未来のタンパク質源について述べている記事があったので紹介したい。この記事では、未来のタンパク質源として『メタン資化菌』と『藻類』を挙げている。この両者に共通する特徴としては、農業に向いている肥沃な土地を利用せずに生産でき、既存の農業と競合しないということである。

メタン資化菌  -未来のタンパク質源①-

メタン資化性菌とは、メタンを餌として増えるバクテリアのことである。植物や藻類ではCO2を炭素源とし、太陽光を使った光合成でエネルギーを得るが、メタン資化性菌はメタンをCO2に酸化することによって生体エネルギーを獲得する。つまりメタン資化性菌は、メタンを餌として増殖するわけだが、その菌体中にはタンパク質なども合成される。そのタンパク質含有量は70%前後と高く、家畜や養殖用の魚粉代替としても十分利用可能な濃度となっている。

メタン資化性菌を使ったタンパク質生産についてはスケールアップ実証が始まっている。米国のバイオベンチャーであるCalysta社はメタン資化性菌を用いたタンパク質の大規模生産を目指しており、2018年までに年間2万トンの生産規模を持つプラントを稼働させる予定としている。原料としては天然ガスを用いることとなっており、天然ガスの価格が10ドル/mmBTUまで上がっても魚粉より安いコストで生産できるとのこと。つい先日、シリーズD*として$40Mの投資を集めたところであるが、このシリーズでは三井物産がリードをとっている。*スタートアップ企業に対して行われる4回目の投資

Calysta社以外にもノルウェーのUnibio社 、インドのString Bio社など、メタン資化性菌からのタンパク質生産に取り組んでいるベンチャーも複数登場してきているので、今後の動向は要チェックだ。メタン資化性菌としては主としてメチロコッカス・カプスラツス(Methylococcus capsulatus)が用いられているようだ。

メタン資化性菌の生産は小スケールでは確立されているものの、大規模スケールの商業レベルではまだ成功していない。メタンはそれ自体がエネルギーを持つ気体であり、爆発の危険性と常に隣り合わせである。このため、安全な設備の設計には高いプラントエンジニア力が求められる。またメタンを原料とするため、その価格変動によって事業性も大きく左右されることとなる。この辺りの技術面及び事業面の課題をどのようにクリアーしていけるかが今後のポイントとなっていくであろう。最近ではメタンの代わりに電気でバクテリアを育ててタンパク質源とする、という取り組みも出ているので、こういったところも競合になってくるだろう。

藻類  -未来のタンパク質源②-

タンパク質源としての藻類に関しては、Modiaでも何度か取り上げてきているが、なぜ藻類がタンパク質源として注目されるのか情報を整理しておきたい。最大の特徴は光合成で増え、単位面積あたりの生産性が高いことである。例えば大豆を1ha(100m×100m)の畑で栽培したときに得られる年間生産量は平均2トンである。大豆のタンパク質含有量30%程度なので、タンパク質換算では年間0.6トンとなる。一方で藻類(スピルリナ)の1haの年間生産量は15トンほどである。スピルリナのタンパク質含有量は65%ほどあるため、タンパク質換算では年間9トンとなる。つまり、藻類は大豆の15倍のタンパク質生産能力を持っていることとなる。ちなみに、牛肉や豚肉などの家畜由来のタンパク質は飼料に由来するため、そのタンパク質生産効率は大豆やトウモロコシよりも低くなる。以下の図に、メジャーなタンパク質源の生産性及び含有量の比較を示したので、参考にしていただきたい。

主なタンパク質源の生産性比較

主なタンパク質源のタンパク質含有量の比較(乾燥重量ベース)/ 筆者作成

このようにタンパク質源として、藻類はその他タンパク質源と比較して生産性も含有量も優れていることがわかる。では、なぜ未だに実用化していないのか?と疑問に思う方が多いだろう。これは単純に藻類を大豆に匹敵するレベルの価格で生産できるようになるにはスケールメリット(1,000ha以上)が必要であり、そのための初期投資が非常に大きくなるためである。藻類を1,000ha単位の大スケールで生産した実例がまだ世界でもないため、そのリスクが読めないまま初期投資するにはまだ時期尚早、と見ている人が多いのであろう。この点については、メタン資化菌と同じである。一方で、現在、世界中の多くの藻類研究者達が藻類の大規模栽培のスケールアップに挑戦している。ある程度のスケール(数十〜数100ha)でも高いタンパク質生産性が確認されれば、一気に投資が集まり世界中で藻類からのタンパク質生産が事業化していくことになるのは間違いないだろう。現に以前取り上げたように、オーストラリアでは藻類からのタンパク質生産を目標に掲げて、国・州レベルで投資を入れた開発を始めている。

まとめ

今回は近い将来起こると予測されているタンパク質危機の背景から、現在のタンパク質源、将来のタンパク質源について整理してみた。あまりにも当たり前すぎて日々の生活において気にすることが少ないが、『タンパク質』こそが生命活動の肝といっても過言ではない。そういった視点から見ると、タンパク質危機のインパクトの大きさ、新しい供給源のビジネスポテンシャルが少しはわかっていただけたのではないかと思う。

私はこの数年タンパク質の動向に注目して情報を追っているが、世界のビジネストレンドが動き始めているのを感じる。海外では昆虫食やエッグフリーのマヨネーズ、植物ベースの疑似肉でハンバーガーを作るベンチャー群が巨額の投資を集め、開発を進めている。つい先日の日経新聞に「植物性タンパク質が脚光を浴びている」という内容の記事が出ていたのもその一環であろう。この記事を見ていると、日本の大手企業も将来のタンパク質危機を見据えて、海外タンパク質系ベンチャーへの出資や買収を始めていることがわかる。

今後、植物性タンパク質の生産、加工、販売がますます活発になっていく分野となるだろう。結局は、質の高いタンパク質を安価に大量に作れる生産プレイヤーがこの競争に勝てるわけだが、私は藻類こそがこの勝負で勝てると見ている。このため、21世紀の藻類メジャーになるべく、研究開発に全力を注いでいるところだ。一見すると関係なさそうな新しい動きも、よくよく詰めていくと根元に『タンパク質』が絡んでいる、ということが結構見られるので、皆さんも今後気にしてチェックしてみて欲しい。

植物タンパク質のサプライチェーン / 筆者作成