Modia[藻ディア]

藻類ビジネスとスピルリナの情報サイト

米国における藻類バイオ燃料ベンチャーの今

米国における藻類バイオ燃料ベンチャーの今

2000年代の米国では、藻類バイオ燃料の商業化を掲げたベンチャー企業が数多く立ち上がった。

その中の一社、マサチューセッツ州に本拠を置くJoule Unlimited社がその活動を停止したことが、ワシントンDCで開催された米国エネルギー省(U.S. Department of Energy, DOE)の会議「Bioeconomy 2017」において確認された。

<Joule Unlimited社のこれまでの活躍の様子>

● 2012年に自動車会社Audiとの戦略的パートナーシップの締結
● 2015年にEPAより、RINコード (D-code 5)(※) を取得
● 同じく2015年に木質バイオマスからのバイオ燃料製造 (木質バイオマスをガス化し、FT法によって炭化水素を合成) を掲げたRed Rock Biofuels社の買収

※RINコード (D-code 5)とは:
バイオ燃料の生産法、使用法、輸送法をトラッキングするために、米国環境保護局(U.S. Environmental Protection Agency:EPA)の再生可能燃料基準(Renewable Fuel Standard : RFS)に基づいてつけられる再生可能識別番号(Renewable Identification Number:RIN)のこと。その中で、D-code 5は「advanced biofuel(先進バイオ燃料)」にカテゴライズされ、バイオマスから生産された燃料で(コーンエタノールを除く)、温室効果ガス(greenhouse gas:GHG)排出量を既存の化石燃料と比較して50%以上削減すると認められたものに配布されるナンバー。

2011年にニューメキシコ州に建設されたバイオ燃料実証設備は、まもなくオークションに掛けられるとのことだ。以下は、当時のニュース記事。

Joule’s SunSprings Biofuel Demonstration Plant, New Mexico

このように、Joule Unlimited社は華々しい活躍をみせていたにも関わらず活動を停止してしまったが、2000年代に立ち上がった他の藻類バイオ燃料ベンチャーはどうなっているのか、その現状の一部をここに紹介する。

Greenfuel Technologies
2001年に世界で初めて 「藻類バイオ燃料の商業化」 を掲げて設立。7,000万ドル以上の投資を調達し、資金を使い果たした後、2009年に閉鎖された。
以下の記事でもこの話題に触れている。

●Aurora Algae
Aurora Biofuelsという社名で始まり、途中でAurora Algaeへ社名を変更。実証施設の設置場所を探しオーストラリアを転々としつつ、テキサス州に実証設備を建設するという目標を掲げたまま活動を停止。オークションに掛けられた多くのラボ備品や、40トンのナノクロロプシスのバイオマス等がニュースで取り上げられた。

RIP, Aurora Algae: Algae and the Never-Never

Sapphire Energy
現在の状況は不透明。
ただし、以下のようにニュースが報じられているため、一定の活動は続いている様子。


一方で、以前紹介した通り、ニューメキシコ州に設置されていた大規模培養設備は、他社に売却されてしまったようだ。

●TerraVia、旧 Solazyme
発足当初掲げられていた、藻類バイオ燃料開発の面影はもはや見当たらず、現在は藻類由来の食料油脂、タンパク質粉末、飼料用油脂等の商業化を行っており、これらの分野においては一定の成功を収めているように見える。しかしその一方で、身売りの話も取り沙汰されている。
参考資料:
http://www.algaeindustrymagazine.com/univar-distribute-terravia-europe/
http://www.algaeindustrymagazine.com/bon-appetit-adopts-terravias-algae-oils/
http://www.algaeindustrymagazine.com/terravia-looking-sell/

Algenol
Algenol Biofuelsという社名で始まり、現在はAlgenol Biotechと社名を変更。
社名が示す通り、(現在でも藻類バイオ燃料の開発を目標の一つに掲げてはいるものの)CO2吸収と、スピルリナ由来の青色色素 (フィコシアニン) の商業化に当面の目標をシフト。
参考資料:
http://www.biofuelsdigest.com/bdigest/2017/03/12/commercializing-algae-the-digests-2017-multi-slide-guide-to-algenol/12/
http://www.biofuelwatch.org.uk/docs/Algenol-Report.pdf

このように、多くの藻類バイオ燃料ベンチャーがその不調を露呈している中、ハワイに本拠を置くGlobal Algae Innovations社のみが、ほぼ唯一、その好調ぶりを現在も示し続けている。

Global Algae Innovations
“藻類バイオ燃料生産” ではなく、“より効率的な「微細藻類生産方法」” に当初から焦点を当て続けている。また、燃料生産よりも「タンパク質危機(Protein Crisis)」等の問題をより強調している。これらの点が、同時期に立ち上がった他の藻類ベンチャーとの大きな違いであると言える。
参考資料:http://www.biofuelsdigest.com/bdigest/2017/06/08/algae-algae-algae-the-digests-2017-multi-slide-guide-to-global-algae-innovations/

藻類バイオ燃料に焦点を絞った会社は倒産し、
藻類バイオ燃料から、より経済性の高い製品に焦点を移した会社は生き残りをかけ奮闘し、
諸用途への原料供給としての藻類バイオマス生産・工程の効率化を掲げる企業が、”今のところ” 好調を呈している、というのが現在の米国における藻類ベンチャーの状況であると言える。

この記事を書いた人

ちとせ研究所所属。東京大学農学部卒業後、アリゾナ大学生物システム工学科にて博士号を取得。その後同大学にて微細藻類バイオマス大量生産を目的としたフォトバイオリアクターの開発・研究に携わる。2015年、13年間の米国生活からとうとう帰国し、真面目に社会人化。光合成でモノをどんどん増やすことに興味のあるアンパンマンに憧れる中年。

SHARE