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藻類培養の変遷 -円形ポンドから担持体培養まで-

藻類培養の変遷 -円形ポンドから担持体培養まで-

これまで微細藻類(以下、藻類)を培養する方法として、円形ポンド、レースウェイポンド、フラットパネル型培養槽、チューブ型培養槽など様々な方法が考案・実証されてきた。先日Modiaで担持体培養や従来の培養方法との比較に言及した記事が公開されたが、今回は改めてポンド培養から担持体培養に至るまで、藻類培養の変遷を時間軸に沿う形で整理していきたい。

藻類培養の一次世代「円形ポンド、レースウェイポンド」

藻類培養の歴史を遡ると、まず初めに円形ポンドやレースウェイポンドを用いたシステムが1960年代から1980年代にかけて商業利用され始めた。これらのシステムは、「シンプルで大型化が容易、初期投資が比較的少なく済む」等の理由から、現在でもクロレラやスピルリナの商業生産において広く利用されている。ただ、大きな問題も抱えており、その最たるものが低い光合成効率(光エネルギーからバイオマスへの変換効率)である。水面付近では、日中の非常に強い日射によって「光阻害 (photoinhibition)」と呼ばれる成長阻害を藻類に引き起こしてしまう。一方で、水面から入射する日光は培養液中を数センチしか透過できないため、水面から数センチ以上の水深では光合成によるバイオマス生産がほとんど期待できない。結果として、水面から大きな光エネルギーを得ているにも関わらず、その光合成効率は非常に低い。

こうした理由から、円形ポンドやレースウェイシステムでは水深を最大で30cm程度に限定することが多いが、水深が浅くなることで、天候の変化による水温・水質の急激な変化、バブリングによる水底から供給されるCO2利用効率の低下等の問題が生じてしまう。これらの副次的な問題については、コストを掛けることで一定の改善が可能ではあるが、光合成効率の根本的な改善には繋がらない。

光合成効率を改善させる培養システム「フォトバイオリアクター」

こうした問題を解決するべく、フラットパネル型培養槽やチューブ型培養槽などの新しい培養システムがこれまで考案されてきた。これらの異なる形状の多様な培養システムにおいて、その研究・開発の背景にある哲学は根本的に同じで、光合成効率の改善を目的としている。多くの場合、受光面積/培養容積比の改善がその対処法として検討される。培養容積に対して大きな受光面積を確保し、より多くの細胞に適量(高過ぎも低過ぎもしない量)の光エネルギーを分配することで、光合成効率の改善が試みられてきた。結果として、技術的な側面からのみ論じれば、フラットパネル型培養槽やチューブ型培養槽を始めとした「閉鎖型フォトバイオリアクター(以下、PBR)」では、従来のポンドやレースウェイと比較して高い光合成効率が報告されている。

しかし、商業的な側面では、「PBRが抱える複雑な構造やそれに伴う初期投資の増大、そして大規模化が困難であること」が大きな課題となっている。事実、2016年に刊行されたNational Biofuels Technology Reviewでは、PBR利用の今後における大きな課題として、バイオフィルム除去の必要性や水温管理の難しさと共に、「設備投資の高さ」や「低拡張性」が挙げられている。

簡単にまとめると、これまでの藻類培養システムの歴史は「安いが低効率のポンド vs 高効率だが高いPBR」とのせめぎ合いであるといえる。

次世代の培養法として注目される「担持体培養」

そんな状況の中、コンセプトとしては古くからあるが、昨今その研究・開発が盛んになりつつある新しい培養方法の一つとして「担持体培養」が注目されている。担持体培養とは、何かしらの担持体表面に藻類のバイオフィルムを形成させ、そこに吸水性の担持体もしくは担持体上部からの給水により培地を供給することで藻類バイオマスの生産を試みた方法である。このシステムでは、先に挙げた「受光面積/培養容積比」はこれまで考案されている多様なシステムの中で最も高い値を示している。つまり、理論的には最も高い光合成効率を達成する可能性がある。その上、1) 培養に必要な水分量が非常に小さく、2) ガス交換(CO2供給およびO2除去)効率が非常に高く、さらに3) 既存のPBRと比較して大規模化が容易である と論じられている。

事実、小規模実証試験の結果では、既に50g/㎡/dを超える非常に高いバイオマス生産性が報告されていたり、前述したNational Biofuels Technology Reviewでも、今後検討の余地がある新たな培養システムの一つとして注目されている。また、この担持体培養の概念をポンドやレースウェイシステムに応用した研究(下記記事参照)や、将来的な宇宙開発への応用を期待したNASAの研究等がある。

Researchers Design Synthetic Trees to Produce Algal Biofuels and Water

In the global effort to wean ourselves from fossil fuels, scientists have been looking towards algal biofuels as renewable sources of energy. Microalgae is capable of using sunlight and carbon dioxide to produce energy-rich molecules, create bioplastics, and act as a replacement to petroleum.

Rotating Algal Biofilm Reactor [On Location]

Some of the hindrances to commercialization of large-scale algal biofuel projects are the large land area required for cultivation, culture contamination, and the difficult and costly dewatering of the harvested cells. A new approach to deal with these issues, which uses a Revolving Algal Biofilm (RAB) is under development at Iowa State University, and a summary was provided by Martin Gross, Graduate Research Associate.

一方で担持体培養にも、1) 培養した藻類バイオマス収穫方法が確立されていない、2) 藻体を効率的に吸着し、液体培地を効率的に供給する担持体素材・形状・加工の改善、3) 効率的な光分散に必要な形状の開発といったような課題が残されているが、その潜在的な可能性の大きさから “担持体培養法は藻類バイオテクノロジーにおけるパラダイムシフトになりうる” と論じられている(Podola et al. 2016)。

未だ規模の大きな実証試験がほとんど行われていないため、その良し悪しを判断するのが難しい状態ではあるが、担持体培養が今後大きな可能性を持った培養方法のひとつであることは間違いないと感じている。


参考資料
・Porous Substrate Bioreactors: A Paradigm Shift in Microalgal Biotechnology?
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0167779916300865

この記事を書いた人

ちとせ研究所所属。東京大学農学部卒業後、アリゾナ大学生物システム工学科にて博士号を取得。その後同大学にて微細藻類バイオマス大量生産を目的としたフォトバイオリアクターの開発・研究に携わる。2015年、13年間の米国生活からとうとう帰国し、真面目に社会人化。光合成でモノをどんどん増やすことに興味のあるアンパンマンに憧れる中年。

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