Modia[藻ディア]

藻類ビジネスとスピルリナの情報サイト

大きな可能性を秘める、微細藻類の「担持体培養」とは

大きな可能性を秘める、微細藻類の「担持体培養」とは

これまでModiaでは微細藻類の培養として、主にオープンポンドやフォトバイオリアクターを用いた生産を取り上げてきた。今回は、藻類培養の手法として今後広く普及する可能性のある「担持体培養」を従来の方法と比較しながら紹介していく。

微細藻類の培養法の分類

まず微細藻類の培養法は、液体培養(懸濁培養)と固体培養に大きく分けられる。従来のオープンポンドシステムやソフトプラスチック(LDPE)を利用したフォトバイオリアクター*は液体培養に分類される。
*フォトバイオリアクターについてはこれまでも下記の通り特集してきた


一方、固体培養には、ポリマーを用いて藻類細胞をゲル・マトリックスの内に固定させ培養する方法と担持体の表面に藻類細胞を付着させ培養する方法(=担持体培養)の二種類がある。今回は、後者のバイオフィルムリアクターとも呼ばれる担持体培養をメインに紹介する

微細藻類の培養方法(液体培養と固体培養)の整理 / 筆者作成

微細藻類を培養する上での課題

微細藻類の商業利用、特にバイオ燃料の生産を商業規模で行うには様々な課題が存在する。その中でも特に問題となるのが、「大規模かつ高密度に培養する方法」と「効率的に分離・回収する方法」である。微細藻類は培地で浮遊しながら増殖するため、現状バイオマスとして利用するためには非常に希薄な濃度の微細藻類を大量の液体から回収しなければならない。例えば、オープンポンドで培養した場合の細胞密度は0.35-0.5g/L(0.035-0.05%)、またフォトバイオリアクターを用いた場合の細胞密度は2-6g/L(0.2-0.6%)で、どちらも密度が極めて低い。そのため回収に費やすコストが高く、オープンポンドシステムでは藻類の回収に関するコストが全体の20-30%を占めると推定されている。

一方、担持体培養では藻類細胞を担体の表面に付着させて少量の培地で高密度に培養することが可能であり、回収は掻き取りや水洗いといった簡単な作業で済むことから、回収工程に費やすコストを大幅に削減できることが期待されている。

また、二酸化炭素の供給面においても、液体培養と担持体培養では違いがある。液体培養で藻類細胞を培養する際は、十分な二酸化炭素を供給するために散気装置が必要となり、培地に空気を吹き込むことによって培養液を攪拌しながら細胞を浮遊させる働きもする。液体培養では、規模を拡大化する際に、この散気装置の圧力損失が大きな課題となっている。他方、担持体培養では二酸化炭素をバイオフィルムと大気の間で直接交換することができ、散気装置(及びそれに費やすエネルギー)が不要なため、コストが削減できる。

担持体培養の秘める可能性

微細藻類の担持体培養というと、あまり耳にしたことがないかもしれないが、都市排水の窒素およびリンを除去するために設計されたポリスチレンディスクの担持体を用いた回転式システムが1980年代に報告されて以来、用途に応じて様々な培養システムが開発されてきた。藻類の種類、担持体の材料、培養条件、培養規模、表面培養面の配置(=光源からの射線に対して、水平か縦か斜面か)等によって、生産性は大きなバラつきがあるが、液体培養に比べ生産効率が飛躍的に向上することが期待できる。

オープンポンドシステムやフォトバイオリアクターを用いた液体培養の生産性(単位面積当り)が平均10-20g/㎡/dayであるのに対し、米アイオワ州立大学の研究者がバイオフィルムシステムとレースウェイ型培養装置を用いて試験を実施した結果、バイオフィルムシステムでは46.8g/㎡/dayの生産性が達成され、レースウェイ型培養装置と比べて大きく向上した(Gross et al.,2015)。また、中国では、200平方メートル規模のパイロットプラントを用いて実証試験を行った結果、バイオフィルムシステムの生産性が50–80g/㎡/dayであったという報告もある(Lui et al.,2013)

 

以上見てきたように、微細藻類の担持体培養は「生産性の向上」、「生産コスト削減」の両面において大きなポテンシャルを持っているが、液体培養に比べて研究開発がまだ少なく、実用化するには多くの課題を残している。例えば、バイオフィルムの中で高密度に培養される藻類細胞は、光や栄養分の勾配、拡散、交換を固相、液相、気相の三相中で行い、液体培養よりも環境が複雑であるため、細胞の栄養環境の恒常化が困難*である。また、安価で耐久性が高い藻類細胞付着材料や自動収穫装置の開発も同時に進めていく必要もある。こうした課題を乗り越えて、担持体培養が広く普及し、微細藻類の生産が拡大していく未来を期待したい。
*液体培養の細胞は均一の環境下にいるのに対し、バイオフィルムの中では細胞が数層で緊密に積み重なっており、外側の細胞は光や栄養素を受け取りやすいが、中央の細胞は受け取る量が少なくバラつきがある。


参考資料
・Magdalena P, et al.”Removal of nitrogen from industrial wastewaters with the use of algal rotating disks and denitrification packed bed reactor.”(1984)
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/0043135484902215
・Gross M, et al. “Evaluating algal growth performance and water use efficiency of pilot-scale revolving algal biofilm (RAB) culture systems.”(2015)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25899246
・Liu T, et al.”Attached cultivation technology of microalgae for efficient biomass feedstock production.”(2013)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23131644

この記事を書いた人

台湾出身、2010年来日。東京大学大学院農学生命科学研究科にて博士号を取得後、ちとせ研究所に入社。ライフサイエンスに幅広く興味を持ち、生物の力を最大化に生かし人類の生活・環境へ貢献できるように努力している。周りに影響されることなく自分軸のある人生を歩む、中国語、英語、日本語の三ヶ国語を操るトリリンガル。

SHARE