Modia[藻ディア]

藻類ビジネスとスピルリナの情報サイト

本物の肉に近づく植物肉市場に藻類が波乱を起こす?

本物の肉に近づく植物肉市場に藻類が波乱を起こす?

最近、インポッシブル・フーズ(Impossible Foods)社の植物肉がシンガポールに上陸したことが社内で話題になった。食べたことのある人からの感想を聞くと、「何も言われなかったら肉だと思う」、「思っていたよりずっと旨い」など、概ね好評であった。

ほぼ肉と同じ見た目、味、食感、香りを生み出すことに成功した秘密は、レグヘモグロビン(Leghemoglobin)という天然では大豆などのマメ科植物の根粒に存在する色素たんぱく質が使用されたからだ。レグヘモグロビンはヘム(heme)という色素部分とグロビンというたんぱく質部分から構成され、肉に豊富にあるミオグロビン(myoglobin)及び血液中に酸素を運搬し全身の組織に届けるヘモグロビン(hemoglobin)と構造が類似している。そのヘムこそ、肉独特の風味を生み出す要素である。

今のところ、米国において植物肉を扱う企業としてインポッシブル・フーズ社とともに二大巨頭となっているビヨンド・ミート(Beyond Meat)社は、植物肉を血の滴るような肉にみせるためにビートジュースを使用しているそうだが、ヘムがもたらす効果とは全然比べものにならないという。

インポッシブル・フーズでは、大豆レグヘモグロビンの生成に必要な遺伝子を組み込んだ酵母を発酵技術で大量に培養することで、レグヘモグロビンを生産・精製している。

インポッシブル・フーズが米国内で製品を展開する際に、特に米国食品医薬品局(Food and Drug Administration ;FDA)の承認は必要としなかったが、彼らは食の安全性・透明性に対する消費者の信頼性を高めるため、2014年に自ら、レグヘモグロビンについて一般的に安全な食品であると認められるGRAS(Generally Recognized As Safe)物質としての申請を行い、FDAによる安全評価を求めた。FDAは当初、遺伝子組み換え酵母を用いて生産したレグヘモグロビンの安全性に対して懸念していたが、約4年間に渡る評価の後、2018年7月23日にレグヘモグロビンをGRAS物質として認定した。

確かに安全性についてはFDAからのお墨付きが得られた。しかし、この方法により生産したレグヘモグロビンを原材料として使用した植物肉は、遺伝子組み換え酵母は含まれていないものの、非遺伝子組み換え食品とは認められない。「非遺伝子組み換え」は食品ジャンルでは大きなセールスポイントになるのである。

持続性、植物性、非遺伝子組み換えと、この三つのキーワードを満たし、まるで本物の肉のような風味と食感が楽しめる肉の代替品は作れないのだろうか?

藻類由来の植物性ヘム

以前、藻ディアの記事でも取り上げたTriton社(2013年設立の米・カリフォルニア大学サンディエゴ校発のベンチャー企業)は、藻類由来のヘムの開発に積極的に取り組んでいる。Triton社はクラミドモナス(Chlamydomonas reinhardtii)と呼ばれる藻類を食品原料として展開しようとしている。

緑藻のクラミドモナスは、紫外線の照射により赤色に変化し、ヘムの生成が誘導される。赤色を呈するヘムと緑色を呈するクロロフィルは構造が類似していて、生合成は途中の段階までは同じ経路である。紫外線を照射することで生合成経路の流れが効率的にヘムの生成に働く。紫外線の照射により藻類が本来もっている遺伝子が変異する可能性はあるが、本来もっている遺伝子の変異は従来の植物品種改良にも同様に起こっている広く受け入れられている現象である。この技術は外来遺伝子は導入していないため、遺伝子組み換え生物には該当しない。また、従来の品種改良に加えて高生産株を選別・取得している。

今後、Triton社はインポッシブル・フーズと同じステップを踏み、FDAの認可を取得する方針である。ちなみに、このTriton社のクラミドモナス由来のヘムについては既に植物肉メーカー何社かが興味を示しているそうだ。

藻類原料は、近年の急成長から今後競争が激化していくと予想される植物性たんぱく質市場に、間違いなく波乱を呼ぶだろう。


参考資料
https://impossiblefoods.com/
https://www.foodnavigator-usa.com/Article/2019/03/13/Triton-woos-plant-based-meat-makers-with-Non-GMO-source-of-heme-the-secret-sauce-in-the-Impossible-Burger
https://www.forbes.com/sites/jennysplitter/2018/11/30/algae-next-plant-based-protein/#359c54b65510
https://this.kiji.is/476434498977727585?c=39546741839462401
https://www.engadget.com/2018/07/25/fda-impossible-burgers-safe-to-eat/
http://fortune.com/2018/07/24/impossible-foods-burger-fda-approval/
https://www.tritonai.com/

この記事を書いた人

台湾出身、2010年来日。東京大学大学院農学生命科学研究科にて博士号を取得後、ちとせ研究所に入社。ライフサイエンスに幅広く興味を持ち、生物の力を最大化に生かし人類の生活・環境へ貢献できるように努力している。周りに影響されることなく自分軸のある人生を歩む、中国語、英語、日本語の三ヶ国語を操るトリリンガル。

SHARE