今年はサンマが不漁のようで、サンマの水揚げ量が全国3位の気仙沼市では、サンマ祭り用の量が確保できず延期になったと、ニュースになっていた。毎年の漁獲状況は我々日本人の生活にも大きく関わり、新聞やニュースでも頻繁に取り上げられる。

今回は、こうした漁業大国である日本が見習うべき事例について見ていきたい。

Windfall for oral aquaculture vaccine development

2016年4月に米サンディエゴで設立したMicroSynbiotiX社は、遺伝子組み換え技術を用いて藻類に水産用の経口ワクチンを生産させる技術を持っている。この技術により養殖時の病気予防管理の手間が低減され、環境負荷の低減にも繋がることが期待されている。

有望なマーケットである水産養殖

日本の水産業は年々衰退しているが、世界的に見ると水産養殖業は年率5.1%の成長率で伸びている。この成長率は食料生産分野の中でも最も高い伸びであり、2019年には2,000億ドル(20兆円)に達すると予測されている。水産養殖は世界的に見て最も将来性のある有望なマーケットの一つなのだ。養殖量が増加する一方で、養殖最中に病気で失われる魚も年々増加し、その額は毎年100億ドル(1兆円)以上にのぼる。

MicroSynbiotiX社の共同設立者であるSimon Jegan Porphy氏は次のようにコメントしている。
「当社の技術は、抗生物質の使用を削減または廃止し、細菌および致死性の病気を防いで水産養殖場での魚の死亡率を低減させます。近年、養殖された魚介類はタンパク質源としての価値が急速に上がってきていますが、いまだに毎年何百万トンもの魚介類が病気によって失われています。我々はそのロスをなくしていきたいのです。」

MicroSynbiotiX社はつい先日、シリーズA*の投資集めに成功したと報告した。集めた額はUSD1.2M(約1.3億円)。Alimentos Ventures* がリードを務め、それ以外ではSOSV*RebelBio* 、Yield Lab Ireland*アイルランド商務庁が出資者として名を連ねている。また別途オーストラリア政府からの助成金もUSD 0.15M(約1,650万円)ほど入っており、まさに世界規模での資金集めに成功している。
*シリーズA:スタートアップ段階でベンチャーキャピタル等が最初に出資するラウンド
Alimentos Ventures:水産系の初期ステージ企業への投資を専門とするドイツ系のベンチャーキャピタル
SOSV:米国系スタートアップ専用ベンチャーキャピタル
RebelBio:アイルランドのバイオ企業スタートアップ専門のベンチャーキャピタル
Yield Lab Ireland:アイルランドの農業系スタートアップ専門のベンチャーキャピタル

水産養殖のニーズに応える、経口ワクチン入り藻類

現在、工業化された水産養殖の現場では、抗生物質の投与が欠かせない状況になっている。水産養殖の現場では、単一種の魚やエビを大量に密集させて飼育するため、どうしても病気が発生しやすい環境にある。この病気の発生を抑えるために抗生物質が投与されているわけである。しかし、抗生物質も万能ではなく、それに耐性を持つ病原菌の出現とのイタチごっことなっている。このため、近年では稚魚や稚エビの時期にワクチンを打ち、抗生物質を使わずに病気を予防する方法が出てきている。ノルウェーのサケ養殖などでは、ワクチンによって抗生物質をほとんど使わずに養殖できるようになってきているが、このワクチン接種は一匹一匹の腹腔内に注射して行われている。非常に手間がかかっているわけだ。

Vaccinating salmon: How Norway avoids antibiotics in fish farming

MicroSynbiotiX社の経口ワクチン入り藻類ができると、餌と一緒にワクチンを取り込んでくれるようになる。これにより現在のような一匹一匹への接種が不要となり、労働コストが大幅カットに繋がる。

全く同じコンセプトで開発を行っている企業としては、2008年に設立されたイスラエル系のベンチャーであるTransAlgae社がある。今年に入ってイスラエル系の世界的農薬大手企業であるADAMA社との開発および実用化の共同研究契約を締結したと発表しており、今後開発が進むことは間違いないだろう。

世界に遅れをとる日本の状況

日本ではどんなに画期的な技術であっても「遺伝子組み換え」を使っている、となった時点で事業化への道が閉ざされてしまうため、こういった研究がお金を集める機会がほとんどない。このような起業環境の違いによって世界的なビジネスチャンスを逃してしまっているのは、もったいないなと感じる。

抗生物質漬けで育った魚と、遺伝子組み替えワクチンを食べて抗生物質を使わずに育った魚と、どちらを選ぶか?と聞かれたら私なら断然後者を選ぶ。遺伝子組み替えを使っている、と聞いた時点で思考停止してしまう風潮は、これだけバイオテクノロジーが世の中に普及した現在になっても、なかなか変わっていかないものだなと感じる。

遺伝子組み換えに抵抗を示すのは、生物の中に神性を見出す日本人の優れた感性の裏返しかもしれないが、少なくとも遺伝子組み替えに対する規制を弱め、世界と戦えるビジネスチャンスは与えてもらいたいなとは思う。それによってできた製品を使うか使わないかは、消費者側に委ねられているわけなのだから。