イタリアのTredici教授の研究グループより、安価なソフトプラスチック(LDPE)を利用した微細藻類屋外培養設備(=フォトバイオリアクター)の技術経済試算に関する論文が発表された。
Techno-economic analysis of microalgal biomass production in a 1-ha Green Wall Panel (GWP®) plant
フォトバイオリアクターとは
微細藻類を含む光合成を行う生物を、光エネルギーを利用して培養する装置であり、広義には商業用に広くに用いられているオープンポンド・レースウェイもフォトバイオリアクターに含まれる。しかし、一般には上述の開放系の培養システムを含まない、閉鎖系の培養システムを指すことが多い。
論文によると、今回試算のベースに利用されたフォトバイオリアクターは「Green Wall Panel (GWP®)」だ。
Products | F&M – Fotosintetica & Microbiologica Srl
以下のEUの藻類プロジェクトにて研究やデモ用に利用されている。
- BIOFAT
藻類燃料バリューチェーン全体の統合・実証を試みるプロジェクト - FUEL4ME (http://www.fuel4me.eu/)
持続可能な藻類由来の第二世代バイオ燃料の連続生産工程・基盤の確立を目指すプロジェクト - SPLASH (https://www.wur.nl/en/show/splash.htm)
ボツリオコッカス藻由来の炭化水素や多糖を持続・再生可能な原料として利用する産業基盤の確立を目標としたプロジェクト - PHOTOFUEL (http://www.photofuel.eu/home.php)
フォトバイオリアクターを用いた藻類培養から、液体燃料の直接的な (培地中に藻類から排出される代謝産物を燃料原料として回収) 生産を目指すプロジェクト - NOMORFILM (http://www.nomorfilm.eu/)
微細藻類由来の生物活性を示す化合物探索を目的としたプロジェクト
また、1,500 m2 規模の初期型のGWP®-Iが、Microalghe Camporosso S.r.l.社によって既に商業利用されているそうだ。WEBサイトによると、様々な藻類種を、化粧品、水産飼料、医薬品、食料品原料として利用するために生産しているそう。
これらの商業および研究用設備での経験を踏まえた経済試算であるという点において、今回の報告は非常に価値があると言える。
但し、報告にも明記されているように、以下の点は心に留めておく必要がある。
- 設備を建設するにあたり必要な土木工事費は含まれていない (整地、土壌圧縮、砂利やコンクリ敷設、電気、ガス、水ラインの建設コスト等は含まれていない)
- 基本的に培養設備は地面に固定されておらず(?)、地表に「置かれている」状態である
- 培養に必要なCO2は近隣の工場等から無料で得る (パイプラインの建設費は含まれてはいるものの、大きな値ではない)
- 建物は、5万ユーロ(650万円程度)シッピングコンテナをベースにした小さいもののみ
- 1haの培養面積に対して、労働力はフルタイム6人のみ
- 税金や保険が低い
- 設備の耐久年数が長い
- 得られるプロダクトは、含水率80%のバイオマスのペースト (遠心分離以降の乾燥工程、パッケージング工程等は含まず)
試算結果によると、1haの培養面積 (培養容積315.2 m3) において、約36トン(乾燥重量)のTetraselmis suecicaのバイオマスが1 kg あたり12.4 ユーロ (= 約1600 円/kg) で生産されるとのこと。また、培養規模を100haまで拡大することで、バイオマスの生産コストは1 kg あたり5.1ユーロ (= 約660 円/kg) になるとのこと。
どの工程までを「生産コスト」に含むべきかについては、ケース毎に細かく検討される必要があるが、フォトバイオリアクターの導入を検討する際のコスト計算のベースとして、今回の報告は最適であろう。
画像クレジット
Photo by IGV Biotech – Photobioreactor PBR 4000 G IGV Biotech / CC by 3.0
SHARE