Modia[藻ディア]

藻類ビジネスとスピルリナの情報サイト

葉緑体の一次共生の謎がついに明らかに?!

葉緑体の一次共生の謎がついに明らかに?!

藻類の「進化」、「多様性」を語るうえで、最も大きなイベントはなんといっても「共生」です。かく言う私も、藻類の「共生」の面白さに魅かれ続けています。

真核生物がシアノバクテリアを取り込み、葉緑体になった現象を「一次共生」といいます。そして、一次共生で誕生した藻類を「一次植物」といいます。このイベントは生命の進化の中でも、一度しか起こっていないと考えられています。詳しくは先日公開した下記記事をご覧ください。

一次共生とは? -藻類の起源-

一次共生という現象は、生物の教科書にも載っているほど広く知られています。しかしながら、どんなシアノバクテリアが、いつ、どこで共生したのかははっきりしていませんでした。

そんな中、新種のシアノバクテリアの発見により、謎が解明されつつあります。

(poncetoledo et al. 2017より引用)

新種のシアノバクテリアの特徴

今回見つかった新種のシアノバクテリアの名前はGloeomargarita lithophoraと言います。メキシコの湖から発見されました。この藻類は炭酸カルシウムのナノ粒子を細胞内で生成する点が、今までに知られていたシアノバクテリアとは違い注目を集めていました(Couradeau et al. 2012)。このGloeomargaritaとその他のシアノバクテリア、そして一次植物の葉緑体の遺伝子DNA配列を合わせて分子系統樹を描いたところ、なんと、シアノバクテリアの中でもGloeomargaritaが一次植物の葉緑体に一番似ていることが明らかになったのです(Ponce-Toledo et al. 2017, de Vries & 2017Archibald, )。つまり、Gloeomargarita似のシアノバクテリアが真核生物に取り込まれて一次共生が起こったということです。

どこで共生は起こったか?

さらに、分子系統樹で用いたシアノバクテリア、灰色藻、紅藻、緑藻それぞれの生息域を調べました。「共生者*」であるシアノバクテリアは、淡水域に生息している種も海に生息している種もいますが、Gloeomargaritaとその近縁種の生息域は淡水域に限定されました。「宿主*」である一次をもつ藻類では、最も昔に進化したのは灰色藻と言われています。灰色藻は淡水域にしか見つかっていない藻類です。共生者も宿主も淡水域に生息する藻類であることから、一次共生は淡水域で起こったことが強く示唆されました。
*共生関係が成り立つとき、共生する側を共生者、共生される側を宿主といいます。

いつ共生は起こったか?

また、分子系統解樹と、化石から推定される地質年代を照合していくことで、何億年前に葉緑体の一次共生が起こったのかが類推できます。それによると、21億年前、シアノバクテリアのGloeomargaritaと一次植物群が分岐していました(Sánchez-Baracaldo et al. 2017)。つまり、一次共生は21億年前に起こったことになります。

新種の藻類Gloeomargaritaの発見が、藻類の進化のビックイベントである「一次共生」の研究を飛躍的に前進させました。この世の中にまだ発見されていない未知なる藻類は無数にいます。今後も新種の藻類が発見されることで、生命史、ひいては地球史に新たな情報が刻まれることを期待せずにはいられません。


参考資料
・The origin of the chloroplast
https://phys.org/news/2017-08-chloroplast.html
・Couradeau,E.et al., An Early-Branching Microbialite Cyanobacterium Forms Intracellular Carbonates. Science, (2012).
・Ponce-Toledo, R. I.et al., An early-branching freshwater cyanobacterium at the origin of plastids.Curr. Biol. 27, 386-391 (2017).
・Vries, J. & Archibald, J. M.,  Endosymbiosis: Did plastids evolve from a freshwater cyanobacterium? Curr. Biol. 27, R103-R105 (2017).
・Sánchez-Baracaldo,P. et al., Early photosynthetic eukaryotes inhabited low salinity habitats’ , PNAS (2017).

この記事を書いた人

SHARE