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米国の藻類研究 -最新版-

米国の藻類研究 -最新版-

2019年10月1日に、米国エネルギー省(DOE)のバイオエネルギー技術事務局(BETO)が、バイオエネルギーの研究開発支援として35のプロジェクトに総額$73,000,000(80億円:$1=\110として計算)を投下することを発表した。内訳を見てみると、森林資源(リグノセルロース)からのバイオ燃料生産(急速熱分解を含む)や、サーキュラーエコノミーを見据えた炭素・プラスチック関連、都市排水処理といったプロジェクトが目立っていた。

35のプロジェクトのうち5つは藻類プロジェクトであり、そこに$20,000,000(22億円)が投下される。藻類生産においては、従来の生産性向上やプロセス最適化などの手法に加え、オミックス手法を用いた研究が取り入れられている点が真新しい。それぞれ3億円から5億円の規模となる5つのプロジェクトについてご紹介したいと思う。

2019年度採択の補助金プロジェクト

51)Optimizing Selection Pressures and Pest Management to Maximize Algal Biomass Yield(OSPREY)(藻類バイオマスの生産性最大化に向けた選択圧の最適化と防除管理)

【概要】屋外での藻類大量培養のために、品種株選択と培養環境の最適化を通じて50%の収穫量増加と20%の燃料変換効率を目指す。既存の屋外培養設備に大きな変更を加えることはしない。藻類培養における障害となる害虫や病原体の感染機構を明らかにするためにメタゲノム解析を行い、これらのデータは米国内の研究拠点にオンラインで共有される。遺伝子組み換え手法を用いない外部環境による選択圧を用いて屋外培養に適した株を選抜する。また同時に、リアルタイムで藻類の生育を追尾できるようなシステムも構築する。さらに得られた株を屋外培養で試験し、改善状況を評価する。
【委託先】(中核機関)ニューメキシコ・コンソーシアム (参加機関)コロラド州立大学、ニューメキシコ州立大学、カリフォルニア大学サンディエゴ校、Qualitas Health社、Cyanotech社、Phase Genomics社
【期間】2019年~
【費用】総額:$4,999,475(5億5千万円)
URL:https://www.energy.gov/sites/prod/files/2019/09/f67/2029-1657_New_Mexico_Consortium_Summary.pdf

52)Innovations in Algae Cultivation(藻類培養のイノベーション)

【概要】Global Aglae Innovation社は、経済的合理性を有する藻類由来のバイオ燃料と高たんぱく質ミール生産の技術開発を行っている。本プロジェクトでは生産に係るすべてのプロセスを見直し、12項目の培養技術、および3項目のモニタリングツールを開発する。ライフサイクルアセスメント(LCA;Life Cycle Assessment)の目標値と限られた生産コストの範囲内で、藻類の大規模培養に向けた50%の生産性向上、50%の強靭性向上、そして20%の変換効率の向上をめざす。第一フェーズでは、上記15項目の開発技術を評価し、2ないし3項目への絞り込みを行う。同時に、ラボスケールの結果を円滑に大量培養に結びつけるために、研究室レベルで生産量数kgが達成可能なスケールアップ技術開発を行う。第二フェーズでは、選定された新技術について、商業化のための大量培養に向けた最適化を行う。
【委託先】(中核機関)Global Aglae Innovation社 (参加機関)国立再生エネルギー研究所
【期間】2019年~
【費用】総額:$4,500,000(5億円)
URL:https://www.energy.gov/sites/prod/files/2019/09/f67/2029-1769_Global_Algae_Innovations_Summary.pdf

53)Algal Productivity Enhancements by Rapid Screening and Selection of Improved Biomass and Lipid Producing Phototrophs (APEX)(改良微生物と脂質生産光合成生物の高速スクリーニングと選択による藻類生産性の向上)

【概要】二種類の藻類品種について、屋外培養池における高生産性(23g/m2/day以上)、高脂質含量(31%以上)、高ロバストネス(50%以上)を目指した品種改良を行い、80 GGE(Gasoline Gallon Equivalent; ガソリンガロン等価換算)/t以上のバイオマス生産をターゲットとする。これを達成するために、ランダム突然変異誘発を併用した分子育種で脂質生合成能力を高めた株を選抜する。必要に応じて濁度調節型連続培養装置(タービドスタット)における選抜と蛍光活性化セルソーティングを併用する。また、委託研究機関のもつバイオインフォマティクス解析(メタボロミクス、トランスクリプトミクス)でラボ培養と現地培養における遺伝子発現の違いを明らかにし、藻類株の選択と改良に役立てる。
【委託先】(中核機関)コロラド鉱山大学 (参画機関)Global Aglae Innovation社、パシフィックノースウェスト国立研究所
【期間】2019年~
【費用】総額:$3,936,302(4憶3千万円)
URL:https://www.energy.gov/sites/prod/files/2019/09/f67/2029-1798_Colorado_School_Mines_Summary.pdf

54)Improving the Productivity and Performance of Large-Scale Integrated Algal Systems for Wastewater Treatment and Biofuel Production(排水処理と燃料生産を目的とした藻類の大規模培養における生産性とパフォーマンスの向上)

【概要】商用可能な排水処理施設において、BETOの見込み最低燃料販売価格($2.50/GGE; ガソリン1L相当72円)を下回る藻類燃料生産を目指すため、生物学的アプローチと技術的アプローチをとる。前者はストレス誘発性による核内倍加と、バイオレメディエーション(バクテリア共存による藻類増殖)の研究を行う。後者は藻類の収穫から下流工程の見直しを行うことで、収穫頻度の最適化を行い、適切なナノ濾過装置の使用と水熱液化による燃料生産と副産物のリサイクル工程を改善する。得られた知見を基にパイロットスケールでの運転を行い、その際に得られたデータから技術経済分析(TEA;Techno-Economical Assessment )やライフサイクルアセスメント(LCA;Life Cycle Assessment)分析を経て燃料の最低販売価格の評価を行う。
【委託先】イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校
【期間】2019年~
【費用】総額:$3,011,601(3億3千万円)
URL:https://www.energy.gov/sites/prod/files/2019/09/f67/2029-1923_University_of_Illinois_at_Urbana-Champaign_Summary.pdf

55)Decision-Model Supported Algal Cultivation Process Enhancement(判定モデルから裏付けされた藻類培養の改善)

【概要】現行の藻類培養における生産性、TEA、LCAといったアセスメント評価は、とりわけ大規模培養において、定量的に重要なリスクにかかわるデータが不足している。大規模培養においては連続培養かバッチ培養かによって異なるリスクを考慮しなくてはならない。本プロジェクトでは異なる藻類、培養方法における判定ツールの構築をめざし、不確実性リスクの評価にはモンテカルロシミュレーションを用いる。AzCati(Arizona Center for Algae Technology and Innovation)率いるATP3コンソーシアムで5年以上行われた屋外培養から得られた包括的なデータを用い、より現実に即したリスク評価を、現行のBETOの目標燃料最低販売価格($3.00/GGE; ガソリン1L相当87円)から見込み最低燃料販売価格($2.50/GGE; ガソリン1L相当72円)で行う。加えて、水質をリアルタイムで測定し、培養時の養分を追加するシステムを導入し、工程管理の改善を行う。最終的に、TEA、LCA、バイオマス生産性におけるモデルを構築し、将来的には研究開発の指針や、周辺機器の開発に役立つことが期待される。
【委託先】(中核機関)アリゾナ州立大学 (参画機関)コロラド州立大学、ロスアラモス国立研究所、Quantitative Bioscience社、Burge Environmental社
【費用】総額:$3,500,000(3億8500万円)
URL:https://www.energy.gov/sites/prod/files/2019/09/f67/2029-1589_Arizona_State_University_Summary.pdf

 

※2018年度以前の補助金プロジェクトは、米国の藻類燃料研究の変遷 part. 1 (2009~2014年度)米国の藻類燃料研究の変遷 part. 2 (2015-2017年度)米国の藻類研究ー2018年度版ーをご覧ください。

この記事を書いた人

長野高専を経て東京大学農学部を卒業。カーボンニュートラルの概念に出会う。卒業後理科教諭をしながら、欧州で提唱され始めたバイオエコノミーという考え方に刺激を受け、居てもたっても居られなくなり渡欧。名門ホーエンハイム大学(ドイツ)、さらにルーベンカトリック大学(ベルギー)で生物工学、農学、経済学、法学と幅広い領域を学ぶ。ドイツとベルギーのビールの美味しさと、欧州での藻類の実用化研究や政策の充実さに衝撃を受けつつ帰国。藻類の知識がなかった留学中に日本語で懇切丁寧に書かれたModiaに救われた事をきっかけに、ちとせ研究所に入社。Modiaを書く側に至る。今欲しいものは藻でできたスマホケース。

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