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米国の藻類研究 -2018年度版-

米国の藻類研究 -2018年度版-

今回は、アメリカで2018年に開始もしくは採択された、補助金のついている藻類プロジェクトをまとめた。具体的には、①アメリカ連邦エネルギー省(DOE)によって2018年以降に採択されたプロジェクトのうち、予算額が1億円を超える藻類プロジェクトと、②DOEのバイオエネルギー技術局(BETO)による2018年補助金プログラムに採択された藻類プロジェクトである。

※2017年度以前の補助金プロジェクトは、米国の藻類燃料研究の変遷 part. 1 (2009~2014年度)米国の藻類燃料研究の変遷 part. 2 (2015-2017年度)をご覧ください。

2018年度採択の補助金プロジェクト

42)Novel Algae Technology for CO2 Utilization(DE-SC0017077、二酸化炭素利用に向けた革新的な藻類技術)

【概要】発電所における石炭燃焼においてCO2を減少させる必要性は喫緊であるが、現在のCO2捕捉技術は経済的合理性にかけている。本プロジェクトでは藻類を用いて90%以上のCO2を回収し、燃料もしくは高付加価値商品に変換させることで、CO2捕捉の費用を商品利益と相殺する。その結果1トン当たり10ドル以下のCO2回収費用に抑えることを目指す。フェーズ1ではそれぞれの技術要素に焦点を当て、80%以上のCO2捕捉技術と、脱水技術と膜技術の向上を目指す。フェーズ2では研究室レベルでそれぞれの技術要素を併せて、将来の適応環境に合わせた試験を行う。脱水技術と膜技術は継続して研究を続ける。TEA分析(Techno-Economic Assessment;技術経済評価)も精査する。将来の可能性としては発電設備と組み合わせて液体燃料と食品、栄養補助剤の生産を目指す。また、使われた水のおよそ99%のリサイクルによって水の消費を抑える。以上の技術は新しい産業と雇用機会を生み出す。
【委託先】Helios-NRG社
【期間】2018年8月27日〜2020年8月26日
【費用】$ 1,009,588($1=110円とすると約1億1100万円)

43)Development of a High Throughput Algal Dewatering System Using Magnetic Particles(DE-SC0013837、磁性粒子を用いた高収率の藻類脱水技術)

【概要】収穫後の藻類の脱水は藻類利用技術における乗り越えなければならない課題の一つであるが、現在はまだ安価な商用化技術は実現できていない。Manta Biofuel社の開発した磁性体を用いた脱水技術は、従来の技術コストを大幅に下げることのできる可能性がある。技術開発と実地試験を通じてプロジェクトの最終段階では96%ものコスト削減を目指し、将来の藻類の大量培養のきっかけにつなげる。
【委託先】Manta Biofuel社
【期間】2018年8月27日〜2020年8月26日
【費用】$ 1,000,000($1=110円とすると約1億1000万円)

44)Advanced Algal Biofoundries for the Production of Polyurethane Precursors(ポリウレタンモノマー生産のための藻類生産企業の設立)

【概要】シアノバクテリアやその他藻類を用いてポリウレタン前駆体を生産する。また効果的な開発、生産のために基本的な品種改良技術ならびに藻類プラットフォームを開発する。まず機械学習を用いてプロモーターライブラリーをはじめとする合成生物学のツールを開発し、目的物の効率的な生産を目指した代謝経路の探索を行う。同時に、遺伝子工学もしくは変異から表れる生産株に優位な因子をスクリーニングするためのバイオセンサーの開発も行う。次に、先に構築した代謝モデルやスクリーニングから得られた知識を統合して、高収量を実現する藻類の生産株を作成する。セルロース由来の糖を栄養源にした従属栄養下ならびに光合成下で収率20g/L以上を目指す。従来の同様な取り組みは通常5年かかるが、本プロジェクトは3年で行うことを目指す。将来的にこの化学品生産の仕組みが藻類の産業利用につながるプラットフォームを築くだろう。
【委託先】(中核機関)カリフォルニア大学サンディエゴ校、(参加機関)カリフォルニア大学デイビス校、ローレンス・バークレー国立研究所、太平洋岸北西部国立研究所、ジョージア工科大学、Algenesis Material社、Reef社、Arctic Foam社、Adidas社、Thermo Fisher Scientific社
【期間】2018年~
【費用】$ 2,000,000($1=110円とすると約2億200万円)

45)Integrating an Industrial Source and Commercial Algae Farm with Innovative CO2 Transfer Membrane and Improved Strain Technologies藻類品種改良技術と二酸化炭素透過技術の革新を踏まえた藻類培養設備の統合的構築

【概要】Nannochloropsis oceanica(ナンノクロロプシス)の品種改良を通じて、生産性の向上とCO2変換効率の向上を目指す。CO2の吸収効率を高めるように品種改良されたナンノクロロプシスに供給するCO2は、酵素膜技術によって空気中から水中への供給率向上を図られたものである。これら一連の供給システムは、数学モデルによって構築される。また、実地の運用段階では工程がモニタリングされて、最適化が図られる。この技術により、従来に比べて25%のCO2吸収効率の向上が見込まれる。これによって、水中へのCO2の大量供給が可能になり、藻類による各種生産物の生産がより経済的合理性を帯びることとなる。
【委託先】(中核機関)コロラド州立大学(参加機関)Qualitas Health社、New Belgium Brewing社
【期間】2018年~
【費用】$ 2,145,600($1=110円とすると約2億3600万円)

46)Multi-pronged approach to improving carbon utilization by cyanobacterial culturesシアノバクテリアによる二酸化炭素利用の多方面アプローチ)

【概要】光合成微生物の成長にとって、CO2は鍵となる原材料である。遺伝子改変がしやすいシアノバクテリアを用いて、排気ガスのCO2から有用物質を作ることを目指す。有用物質としてはラウリン酸やメチルラウリン酸があり、これらは脂肪酸やバイオ燃料の原料物質となる。青写真は魅力的であるものの、実用化にはいくつか越えなければならない壁が存在する。例えば、CO2の水への溶解に上限があることや、生物学的に吸収にも上限があることである。我々は生体親和性があるアミン溶液を用いた、微細気泡方式の供給システムを開発する。アミン溶液は液相にCO2が溶けやすくなり、さらに微細気泡は水中において水との接触面積を上昇させるので、CO2をより水中に溶けやすくする。また、遺伝子改変技術を用いてCO2吸収に関係のある酵素の代謝経路を改変し、終日に渡るCO2の吸収効率を向上させる。TEA分析とLCA分析(Life Cycle Assessment;環境影響評価)を併用してトータルで50%以上のCO2利用効率の向上を目指す。
【委託先】(中核機関)アリゾナ州立大学(参加機関)コロラド州立大学、Nano Gas,Inc.社
【期間】2018年~
【費用】$ 2,500,000($1=110円とすると約2億7500万円)

47)Algae Cultivation from Flue Gas with High CO2 Utilization Efficiency排気ガス由来二酸化炭素の利用効率を高めた藻類培養)

【概要】排ガスの捕捉と有効利用の効率を高めることによってバイオ燃料とタンパク質製品の生産を行う。排ガス由来のCO2捕捉と利用効率を高め、1トン当たりのCO2コストを20ドルに抑え、石油燃料由来のCO2排出量に比べて85%の削減を実現する。加えて、オープンポンド型の藻類培養システム、脱水、抽出の技術の向上と、TEA分析とLCA分析も実施する。新しく開発する制御アルゴリズムを用いてCO2利用を最適化し、また培養に適した藻類品種ライブラリを構築する。本プロジェクトはハワイの培養施設で実施されるが、このライブラリはハワイのみならず、アメリカ本土での研究にも活用することが期待できる。
【委託先】Global Algae Innovations Inc.社
【期間】2018年~
【費用】$ 2,500,000($1=110円とすると約2億7500万円)

48)Carbon Utilization Efficiency in Marine Algae Biofuel Production Systems Through Loss Minimization and Carbonate Chemistry Modification(二酸化炭素の利用効率向上を通じた海産藻類によるバイオ燃料生産)

【概要】藻類燃料の高生産には藻類へのCO2供給が不可欠であるが、とりわけ開放型レースウェイポンドにおいては安定供給が難しい。一方で、TEA分析やLCA分析では、CO2の大量供給を改善することによって藻類技術の実用化の道が開けることが示されている。本プロジェクトは藻類の生産性と、CO2の溶解度や水溶液中の重炭酸塩との関係を明らかにし、開放型レースウェイポンドにおける試験を行う。
【委託先】(中核機関)Duke大学(参加機関)カリフォルニア大学サンタクルーズ校、B&D社、Bucknell社
【期間】2018~
【費用】$ 1,511,515($1=110円とすると約1億6600万円)

49)Air Carbon for Algae Production – AirCAP(空気中の炭素を用いた藻類生産)

【概要】空気中のCO2を回収して藻類による燃料生産や藻類由来の製品の開発を目指す。発電所などのCO2排出源と、藻類生産を組み合わせることによってCO2の資源としての可能性を見出す。この技術によって藻類培養におけるCO2供給コストを削減する。水と空気の海面におけるCO2の溶解度の限度が藻類生産のボトルネックになっているが、本プロジェクトでは生化学・生物学・物理学・化学それぞれの分野の知見を統合して問題の解決に取り組む。本プロジェクトの成功が近い未来のCO2の有効利用につながり、アメリカにおけるガソリンとディーゼル燃料の内、藻類由来が10%を占め、また地方都市での雇用創出につながるだろう。
【委託先】MicroBio Engineering Inc.社
【期間】2018~
【費用】$ 2,260,880($1=110円とすると約2億4900万円)

50)Direct Air Capture of CO2 and Delivery to Photobioreactors for Algal Biofuel Production二酸化炭素捕捉技術とPBRを組み合わせた藻類による燃料生産

【概要】PBRへの空気中からの直接的なCO2捕捉から、藻類による燃料生産を目指す。TEA分析とLCA分析も同時に行う。小規模装置においては必要CO2の98.5%を供給することができているが、大規模な実用化においては外部から熱電供給によるCO2と混合させる。CO2回収技術としてこのプロセスに適する耐酸化性の吸着剤の開発を行う。また、CO2の吸着・脱着プロセスの最適化をモデル化し、PBRと組み合わせる。結果として、藻類による燃料生産のコスト削減のためのデータと知見、供給されるCO2濃度に対する藻類の応答、さらにはPBRに最適化されたCO2捕捉技術により、藻類培養の好条件を提供することであろう。
【委託先】(中核機関)ジョージア工科大学(参加機関)Global thermostat社、LLC社、Algenol Biotechs社 国立再生資源エネルギー研究所
【期間】2018~
【費用】$ 1,983,452($1=110円とすると約2億1800万円)

 

アメリカの補助金プログラムは特定の技術への支援というイメージが強かった。特に、2018年採択の研究内容は、CO2関連の多彩な技術に資金が投下されているようである。また、アカデミアが主体になるケースが多い。そこからスピンアウトしてベンチャーを立ち上げる、というルートがその先に描けるかもしれない。広く可能性のありそうな技術にお金を出すアメリカに対して、私の好きな欧州はバイオエコノミーの枠組みの中で事業への支援をしている。実用化までの道のりとしては欧州の方が少し先を行っているという印象をもった。

この記事を書いた人

長野高専を経て東京大学農学部を卒業。カーボンニュートラルの概念に出会う。卒業後理科教諭をしながら、欧州で提唱され始めたバイオエコノミーという考え方に刺激を受け、居てもたっても居られなくなり渡欧。名門ホーエンハイム大学(ドイツ)、さらにルーベンカトリック大学(ベルギー)で生物工学、農学、経済学、法学と幅広い領域を学ぶ。ドイツとベルギーのビールの美味しさと、欧州での藻類の実用化研究や政策の充実さに衝撃を受けつつ帰国。藻類の知識がなかった留学中に日本語で懇切丁寧に書かれたModiaに救われた事をきっかけに、ちとせ研究所に入社。Modiaを書く側に至る。今欲しいものは藻でできたスマホケース。

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