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微細藻類が薬剤耐性の救世主に!? -NoMorFilmプロジェクトの取り組み-

微細藻類が薬剤耐性の救世主に!? -NoMorFilmプロジェクトの取り組み-

現在、世界各地で薬剤耐性(AMR)の予防が叫ばれ、抗菌薬の過度な使用についての喚起が広がっている。

歴史を遡ってみると、1928年に世界で初めての抗生物質としてペニシリンがイギリスの医学者アレクサンダー・フレミング(Alexander Fleming)によって発見されて以来、各地で抗菌薬の開発が進み、無数の命が救われてきた。その後、最初の数十年間に年間約15~20種の新たな抗菌薬が開発・承認されたが、直近十年で上市された新たな抗菌薬はわずか6種しかない。抗菌薬を使い続けると耐性菌が現れ常に新たな抗菌薬が必要とされる中、国連をはじめ世界各地で薬剤耐性に対して警鐘が鳴らされている。

薬剤耐性の要因の一つであるバイオフィルムとは

こうした薬剤耐性を引き起こす原因の一つが、バイオフィルム(菌膜、Biofilm)だ。バイオフィルムとは、細菌が菌体外に分泌する多糖類などのマトリクスと菌の集合体により形成される構造体を指す。我々の生活に身近なところでは洗面台や浴槽のヌメリや歯垢などがバイオフィルムの一種である。

このバイオフィルムは医療現場において治療を大変難しくしている。というのも、細菌が付着・増殖してマトリクスに覆われたバリアを張った状態(=バイオフィルムを形成した状態)になると、薬剤に抵抗性を示すだけでなく、生体の防御機構から逃れやすくなるからだ。アメリカ国立衛生研究所(National Institutes of Health;NIH)の報告によれば、細菌感染症の80%以上はバイオフィルムが関与していると推定されている。近年、インプラントやカテーテル、人工関節などの人工医療材料を用いた治療に伴い、バイオフィルムに関連した感染症(バイオフィルム感染症)が増加している。一旦バイオフィルム感染症が起これば、感染症のコントロールは困難となり、医療材料を摘出せざるを得ないのが現状である。この場合、抗菌薬使用の増加を伴い、再置換術のコストは一件当たり約60,000〜100,000ドルの増加が見込まれる。

微細藻類を使った抗菌成分の探索への期待

バイオフィルム等により薬剤耐性が拡大している一方で、新規抗菌薬の開発は停滞している。こうした困難な状況の中、スペインのバルセロナ国際保健研究センター(ISGlobal)が率いるNoMorFilmプロジェクト*は、抗菌薬の開発にあたり微細藻類の可能性に注目している。このプロジェクトは、大陸を超えて世界各地から収集した6,800種類もの微細藻類から、全く新しい構造を持つバイオフィルム系抗菌成分の探索を目的としており、来年3月まで研究が進められている。NoMorFilmの目的や研究開発の様子を知りたい方は、是非下記動画をご覧頂きたい。
*本プロジェクトは、EUの研究助成プログラムである”Horizon 2020”に採択され、2015年4月1日~2019年3月31日の4年間、760万ユーロの研究助成金を受けて研究が進められている。

 

今回取り上げた薬剤耐性の問題については日本政府も対策を急いでおり、現に2016年4月には下記「薬剤耐性対策アクションプラン」が策定された。その中で、新規抗菌薬の研究開発も重点推進6分野の1つに含まれている。

AMRアクションプラン

 

微細藻類は未だに多くの謎を持っており、藻ディアでも注目し続けてきた。しかし、未知な部分が多いからこそ、微細藻類が人々の健康に脅威を与える薬剤耐性や感染症を克服する抗菌薬の画期的な突破口になり得るのではないかと強く期待している。まずは、今回取り上げたNoMorFilmプロジェクトの行方を注視していきたい。


参考資料
・薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン -厚生労働省
http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000120769.pdf
・森川 正章(2012) . バイオフィルムを調べてみよう. 生物工学 第90巻
https://www.sbj.or.jp/wp-content/uploads/file/sbj/9005/9005_yomoyama_2.pdf

この記事を書いた人

台湾出身、2010年来日。東京大学大学院農学生命科学研究科にて博士号を取得後、ちとせ研究所に入社。ライフサイエンスに幅広く興味を持ち、生物の力を最大化に生かし人類の生活・環境へ貢献できるように努力している。周りに影響されることなく自分軸のある人生を歩む、中国語、英語、日本語の三ヶ国語を操るトリリンガル。

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