先日、こちらの記事で国内の微細藻類研究動向について国家予算の視点からまとめてみた。国内を俯瞰した記事の後は、海外の動向も知りたい、ということで、今回から数回に分けて世界の微細藻類研究動向をまとめていきたい。

まず第1回目は米国の微細藻類研究の動向について過去の変遷も踏まえて書いていく。米国の場合は、「自国での燃料生産」に焦点を当てているのが特徴であり、微細藻類研究も燃料生産が軸となっている。

米国における微細藻類燃料研究開発の歴史

 米国では1978年から1996年にエネルギー省が資金を出したプロジェクトAquatic Species Program-Biodiesel from Algae(ASP)で微細藻類からのバイオディーゼル(BDF)を生産する取り組みが大々的に進められたが、当時の原油価格と比較して経済的な優位性が認められないため中断された。

ASPの約20年間にわたる取り組みをまとめた報告書。300ページを超える報告書であり、こちらからダウンロードが可能。

一度は下火になった微細藻類由来の燃料開発であったが、2004年頃からの世界的な原油価格の高騰に加え、2007年に『エネルギー独立安全保障法 (EISA:Energy Independence and Security Act法)』が制定されたことをきっかけに、「微細藻類からの燃料生産構想」を掲げる複数のベンチャー企業が立ち上がった。

また、トウモロコシに代表される食用作物の燃料化に対する世間からの風当たりが強まっていた中、食料と競合せずに陸上植物よりも効率よくエネルギーを生産できるという新しいバイオマスエネルギーの話に多くの投資家やベンチャーキャピタル、事業会社からの資金が集まり、微細藻類研究は一躍脚光を浴びることとなった。 

しかし、微細藻類燃料開発への活発な投資の背景にあった原油価格が急落。2014年前半まで1バレル=100ドルとなっていた原油価格が、2016年2月には一時26.05ドルまでに低下する展開になった。この原油価格の急落は、米国で起こった『シェール革命』が主な原因と言われている。このシェール革命による原油価格の低下にあわせるようにバイオマスエネルギーへの期待値も下がり、バブルのような状態にあった微細藻類燃料の研究開発に関しても熱気が冷めていった。かつてのような狂騒状態は落ち着き、米国での微細藻類燃料研究は終焉した、というような見方もあるようだが、決してそうではない。投資を集めるために目立つが勝ち、といった表面的な研究開発を行っていたプレイヤーは淘汰され、官主導のもとで本当に力のある大学、機関、企業が地に足を付けた研究開発を粛々と進めている。

米国の微細藻類燃料研究の体制

米国の微細藻類燃料研究は、官が主導で行われているのが特徴である。EISA法によってバイオ燃料使用が義務化された後、米国環境保護局(EPA: Environmental Protection Agency)が具体的な混合義務量の数値を2022年まで各年で設定したロードマップを作成している。この目標値は再生可能燃料基準 (RFS: Renewable Fuel Standards)として毎年更新された後、提示される。

2007年に設定されたRFS当初案 *バイオディーゼルのみ (ガロン ディーゼル相当/年) で表示。

2022年までのバイオ燃料混合義務量のロードマップが示されている。毎年改定され、実勢にあった混合量が提示されている。

RFSによって設定された義務量を踏まえて、各省庁はバイオ燃料生産で目指すべき目標値を掲げている。微細藻類燃料開発については、エネルギー省(DOE: Department of Energy)が旗を振って進めており、『2030年までに年間50億ガロン(1ガロン=3.8リットル)の微細藻類由来燃料を1ガロンあたり3ドル(日本円換算で約84円/リットル、1ドル=106円とする)で生産する』という目標値を掲げている。

米国の微細藻類研究の体制図 / 筆者作成

RFSに基づいて各省庁が微細藻類燃料関連の技術開発をサポートしている。研究予算は上から下へと流れていく。中心となっているのはDOE(エネルギー省)であり、具体的な数値目標を設定して進めている。

米国の微細藻類燃料研究の動向

微細藻類燃料で目指すべきゴールが設定された後、当時の米国内の微細藻類研究状況の全体把握及びその現状を踏まえた開発のロードマップの作成をDOEが主導して行い、その報告書が共有された。これが2010年に発表された『National Algal Biofuel Technology Roadmap』である。

2010年にまとめられた藻類燃料生産に関する技術開発のロードマップ。当時の技術動向を把握した上で、設定された目標値を達成するために進めるべき開発技術が示されている。このロードマップを見た上で、各要素技術に対する予算が配分されており、米国の体系立った微細藻類研究の基礎を支えている報告書である。

この報告書の中では、微細藻類培養の研究における2010年時点での開発動向が分野別にまとめられ、それを踏まえた今後の技術開発の動向を導くためのロードマップが作成されている。

ロードマップでは微細藻類から油脂を抽出するまでの工程を『培養』、『収穫』、『脱水』、『抽出』の4つの題目に分け、各題目で必要となる要素技術が提示されている。要素技術は10項目に細分化され、項目ごとに2010年当時の進捗動向がまとめられている。これらの要素技術の分類と進捗状況に合わせて、予算が投下されている。

National Algal Biofuel Technology Roadmap(2010)で提示されたモデル工程と各要素技術

2010年当時に存在する技術で生産から油脂抽出までの一貫プロセスを示した。これにより全体像が把握でき、各要素技術の位置付けが明確となった。

微細藻類燃料開発に必要な各要素 (2010)

要素技術以外に「インフラ」「連携」「分析」3分野を加え、全体を5分野10項目に分けている。各要素技術についての現状と開発の目指すべき方向性をまとめている。


また、2010年に発表されたロードマップを軸に研究開発が進められ、そこで得られた知見が『National Algal Biofuel Technology Review』として2016年に発表された。この報告書の取りまとめもDOEが行っている。

010年に発表されたロードマップから2016年までの間に行われた技術進捗をまとめて報告したもの。各要素技術の現状及び抱える課題などがより明確になり、次の技術開発の方針が示されている。この報告書を見ることによって、どの部分の開発がボトルネックになっているかが把握でき、各課題に解決策を持つ新規参入者を呼び込むことができる。

2016年までの研究開発状態の取りまとめをもとに、現状の技術を用いた上での微細藻類液体燃料の価格を算出している。この結果、現在のデータを踏まえたシュミレーションに基づくと、1ガロン(=3.8L)のガソリン等量に匹敵する微細藻類由来バイオディーゼルの価格は17.69ドルと算出された。これは1リットルあたり$4.65ほどとなり、日本円に換算すると1リットルあたり約512円(1ドル=110円とする)となる。この価格の内訳のうち、85%が微細藻類原料を生産するコストであり、大量培養による藻体原料の低コスト化こそが微細藻類燃料生産において最大のポイントであることがわかる。なお、現在抱えている各課題を解決した2022年のシナリオでは、1リットルあたり約140円で生産可能としている。

 生産コストの内訳 (円/GGE※1) 2015年時点の予測 2022年時点の予測
原料生産コスト 1,656円 465円
変換コスト 214円 149円
水素化コスト 89円 51円
嫌気発酵コスト※2 -30円 -28円
Balance of Plantコスト 17円 12円
合計 1,946円 649円

2016年レポートで算出されている微細藻類燃料の想定価格
※1. Gasoline gallon equivalent (GGE):1ガロン(=3.8L)のガソリン等量に匹敵する微細藻類由来バイオディーゼル
※2. 栄養塩の再利用および二酸化炭素のリサイクルによるクレジットをプラス換算

上記シミュレーションによる微細藻類燃料コストの算出に加えて、『National Algal Biofuel Technology Review』には2010年から2016年までに得られた研究結果に基づき、各要素技術に対する今後の課題がまとめられている。

今回は米国の微細藻類燃料研究の変遷、目標設定、研究体制などについてまとめてみた。米国における微細藻類研究の開発方針を俯瞰してみると、燃料生産をゴールとして、国を中心として体系立った進め方をしているのがよくわかる。米国の場合は『国防』という大義が共有されているため、自国防衛につながる燃料生産というテーマは足並みが揃えやすいのだろう。

回を改めて、米国における2010年〜現在までの間で行われた研究開発と、そこから見つかった課題の整理、2016年に新しく提案された工程について説明をしたい。
そしてまた、EUの微細藻類研究動向もまとめていく予定である。

to be continued・・