Modia[藻ディア]

藻類ビジネスとスピルリナの情報サイト

日本の藻類燃料研究の変遷 part.2 (2011年度)

日本の藻類燃料研究の変遷 part.2 (2011年度)

前回 part. 1では、日本の藻類燃料研究の流れと、2009~2010年度に開始されたプロジェクトを紹介した。

今回 part. 2では2011年度に開始されたプロジェクトNo.23〜39の詳細を記す。なお、一覧表および次項にある各プロジェクトの説明に記載した金額は、各事業の募集時点の予算規模(最大額)を記している。

微細藻類燃料に関する国内助成金一覧表/筆者作成

2011年度当時は、藻類が急速に注目を集める中、最終目標に燃料を設定しながら、多様な研究が行われていた。多様な藻類脂質原料の燃料化研究、バイオ燃料化プロセスの中の特定プロセスに特化した研究、藻類培養をコントロールする研究、燃料と燃料以外の機能とを合わせた研究などがあげられる。

2011年度採択の助成金

23)油分生産性の優れた微細藻類の育種・改良技術の研究開発

【概要】コンタミネーションの発生し難い酸性環境で増殖し、高い油分蓄積能力を有する微細藻株Pseudochoricystis(シュードコリシスティス)を用いて、レースウェイポンドにおける油分生産能力の評価、および、コスト低減と安定生産を目指した培養システムの開発を行う。
【委託先】<大学>中央大学(中核機関) <企業>株式会社デンソー
【期間】2011~2014年度
【予算】240百万円 (60百万円/年)
【事業名】NEDO「戦略的次世代バイオマスエネルギー利用技術開発事業」

24)炭化水素系オイル産生微細藻類からのDrop-in Fuel製造技術に関する研究開発

【概要】微細藻類由来のバイオ燃料製造技術開発の一環として,炭化水素系バイオオイルを産する微細藻類(ボトリオコッカス並びにオーランチオキトリウム)に着目し、これらの藻類が作る油脂(バイオクルード)を軽質燃料(ガソリン、ジェット燃料,軽油)へ改質する研究開発を実施する。また、微細藻類油脂から作られるバイオ燃料が、既存石油精製装置並びに物流システムへ適用可能な“Drop-in fuel”となることを示す(石油系燃料にそのまま混合可能な高品質な燃料)。
【委託先】<企業>出光興産株式会社
【期間】2011〜2012年度
【予算】120百万円 (60百万円/年)
【事業名】NEDO「戦略的次世代バイオマスエネルギー利用技術開発事業」

25)循環型エネルギーを利用した硫酸性温泉紅藻によるレアメタル回収システムの開発

【概要】硫酸性温泉紅藻の金属回収機構の解明により、循環型エネルギーを利用したレアメタルリサイクルシステムの開発を行う。このシステムでは、金属精製や金属廃棄物処理から生じるレアメタルの回収と水質浄化の工程で生じるCO2を固定してバイオ燃料を生産することで、カーボンニュートラルな金属リサイクルの達成を目指す。
【委託先】<大学>筑波大学
【期間】2011〜2014年度
【予算】40百万円 (10百万円/年)
【事業名】JST さきがけ「藻類・水圏微生物の機能解明と制御によるバイオエネルギー創成のための基盤技術の創出」

26)多様な光スイッチの開発による細胞外多糖生産の光制御

【概要】光合成生物は光合成を効率よく行うために、さまざまな光センサーを駆使し、変動する光環境に馴れている。一方、近年、光合成を利用したバイオエネルギー生産が注目されているが、実際的な産業利用のためには、生産効率の向上が必須課題となっている。本研究では、光センサーとその制御系の新たな組み合わせを創出することで、多様な光スイッチを開発し、効率的な細胞外多糖生産系の確立を目指す。
【委託先】<大学>東京大学
【期間】2011〜2014年度
【予算】40百万円 (10百万円/年)
【事業名】JST さきがけ「藻類・水圏微生物の機能解明と制御によるバイオエネルギー創成のための基盤技術の創出」

27)水圏生物のマイクロミラーによるエネルギー変換伝達機能の獲得

【概要】本研究は、水圏生物に特有の水中“マイクロミラー”を利用し、太陽光エネルギーを回収する新技術の創成を目指す。水圏微生物体内のフォトニック結晶や魚類ウロコの色素胞に含まれるグアニン結晶板などの構造色系組織が、低摩擦・低エネルギーのロスによってブラウン運動を起こすメカニズムを解明し、このマイクロミラーの配向を磁気的に制御することで、微細な光制御機構による光エネルギー変換伝達の効率化を水圏生物から獲得する。
【委託先】<大学>千葉大学
【期間】2011〜2014年度
【予算】40百万円 (10百万円/年)
【事業名】JST さきがけ「藻類・水圏微生物の機能解明と制御によるバイオエネルギー創成のための基盤技術の創出」

28)糸状性シアノバクテリアを用いた細胞間分業による効率的バイオアルコール生産

【概要】これまでバイオマスとしての利用が検討されてきた微細藻類は単細胞性であり、1つの細胞内で光合成を始めとするさまざまな生体反応が行われ、バイオマスを生産している。そのため、代謝系とその制御システムは非常に複雑なものになっている。本研究では、数百の細胞がつながった糸状性シアノバクテリアが作る機能分化した細胞ヘテロシストを利用して、細胞間での分業による効率的なバイオアルコール生産システムを開発する。
【委託先】<大学>中央大学
【期間】2011〜2014年度
【予算】40百万円 (10百万円/年)
【事業名】JST さきがけ「藻類・水圏微生物の機能解明と制御によるバイオエネルギー創成のための基盤技術の創出」

 29)微細藻類ユーグレナの新規形質転換法の開発と応用

【概要】ユーグレナ(ミドリムシ)は、大気濃度から40%までの幅広い濃度のCO2のもと光合成を行い、ワックスを作る能力を持っている。ワックス生産能を2倍にすると、生産・抽出など全ての工程を踏まえた「CO2排出ゼロ」を達成できる。本研究では世界初のミドリムシ核ゲノム形質転換系を確立し、これまで研究してきたミドリムシ独自の代謝系を制御することで、カーボンニュートラルなバイオ燃料生産を目指す。
【委託先】<大学>大阪府立大学
【期間】2011〜2014年度
【予算】40百万円 (10百万円/年)
【事業名】JST さきがけ「藻類・水圏微生物の機能解明と制御によるバイオエネルギー創成のための基盤技術の創出」

30)好気条件下で水素(H2)製造反応を触媒する[NiFeSe]型ヒドロゲナーゼの分子構築

【概要】燃料電池は、水素と空気から直接電力を取り出す夢の発電法として注目されている。その水素を大量に製造するために微生物のヒドロゲナーゼ(H2ase)が期待されてきた。しかしH2aseは空気中の酸素に弱く、実用化は困難であった。本研究では、比較的酸素耐性が高いとされる新型H2aseに対して、京速スパコンを用いた蛋白質量子計算を行い、大気中でも水素生産が可能なH2aseを開発する。
【委託先】<大学>岡山大学
【期間】2011〜2014年度
【予算】40百万円 (10百万円/年)
【事業名】JST さきがけ「藻類・水圏微生物の機能解明と制御によるバイオエネルギー創成のための基盤技術の創出」

31)超高効率でイソプレノイド燃料をつくる藻類の創製

【概要】シアノバクテリアのイソプレノイド経路を大規模に再構築し、これに独自に開発した進化工学法によって鍛えた、高活性なテルペノイド酵素群を導入する。最終的に得られた遺伝子経路は、ポータブルな形でクラスター化し、組み換え系の確立しているその他の藻類への移植を試みる。CO2を原料として、あらゆる内燃機関に対応する、多様なテルペン燃料を供給するバイオ生産システムの開発を目指す。
【委託先】<大学>千葉大学
【期間】2011〜2014年度
【予算】40百万円 (10百万円/年)
【事業名】JST さきがけ「藻類・水圏微生物の機能解明と制御によるバイオエネルギー創成のための基盤技術の創出」

32)微細藻におけるオイル産生代謝機構の解明

【概要】一部の単細胞緑藻はストレスにより増殖を停止し細胞内に中性脂質を蓄積する事が知られており、次世代バイオ燃料源として期待されている。本研究では、緑藻のモデルであるChlamydomonas reinhardtiiを用いて、安定同位体を利用した経時的メタボローム解析により代謝の流れを解明し、中性脂質を高度に生産させる品種改良法の構築を目指す。
【委託先】<大学>慶應義塾大学
【期間】2011〜2014年度
【予算】40百万円 (10百万円/年)
【事業名】JST さきがけ「藻類・水圏微生物の機能解明と制御によるバイオエネルギー創成のための基盤技術の創出」

33)生物界最速シャジクモミオシンを利用した植物成長促進システムの開発

【概要】本研究では、植物ミオシンに生物界最速のシャジクモミオシン、あるいは低速タイプミオシンのモータードメインを融合することにより、植物の原形質流動速度を人工的に調節する。高速化による植物大型化や低速化による小型化によって、人工的な植物サイズ制御システムを確立する。原根形質流動は植物共通の輸送システムであることから、将来的には、食糧やバイオマスに関連した有用植物への応用展開を目指す。
【委託先】<公的機関>理化学研究所
【期間】2011〜2014年度
【予算】40百万円 (10百万円/年)
【事業名】JST さきがけ「藻類・水圏微生物の機能解明と制御によるバイオエネルギー創成のための基盤技術の創出」

34)ハイパーシアノバクテリアの光合成を利用した含窒素化合物生産技術の開発

【概要】窒素固定型シアノバクテリアは、大気中の窒素を直接同化し、細胞内でアミノ酸などの含窒素化合物を生合成する。この過程では、窒素からアンモニアを生成し、これをアミノ酸などの合成に用いている。本研究では、遺伝子組み換えにより高効率でエネルギー同化する窒素固定型シアノバクテリアを開発し、その窒素代謝系を改変した変異株を作成して、高収率に含窒素化合物を生産する技術開発を行う。さらに、このシアノバクテリアを安定に大規模培養する技術を構築し、光合成による含窒素化合物の工業生産を実現するための基盤技術の開発を行う。
【委託先】<大学>東京工業大学*(中核機関)、首都大学東京、大阪市立大学
【期間】2011〜2016年度
【予算】498百万円 (83百万円/年)
【事業名】J ST CREST「藻類・水圏微生物の機能解明と制御によるバイオエネルギー創成のための基盤技術の創出」

35)藻類完全利用のための生物工学技術の集約

【概要】豊富な大型藻類を原料とした「ものづくり」に向け、メタゲノムやセルロース利用微生物のゲノム情報から大型藻類の細胞壁多糖類などの化合物を分解する各種酵素等を探索し、それらの機能を細胞表層工学の手法により酵母等に集積し、高機能エキスパート細胞触媒を創製する。この技術を中心として、大型藻類からバイオ燃料だけでなく、燃料電池発電や有用化合物生産をも含む「大型藻類バイオリファイナリー」の実現のための生物工学技術を集約した基盤技術の創製を目指す。
【委託先】<大学>京都大学*(中核機関)、三重大学、九州大学、早稲田大学、大阪大学
【期間】2011〜2016年度
【予算】498百万円 (83百万円/年)
【事業名】JST CREST「藻類・水圏微生物の機能解明と制御によるバイオエネルギー創成のための基盤技術の創出」

36)高バイオマス生産に向けた高温・酸性耐性藻類の創出

【概要】紅藻は藻類の大分類群の1つであり、海洋バイオマスの基盤をなしている。極限環境(高温・酸性等)に棲む紅藻“シゾン”は100%ゲノム解読に成功しおり、さらに遺伝子破壊・操作系が確立されている。本研究ではこれら微細藻類と技術を用い、バイオマス生産に必須なCO2同化や糖質・油脂合成の仕組みを明らかにして、有用な遺伝子の同定・導入を行い環境変動下でも高い生産性を持つ微細藻類の作出を目指す。
【委託先】<公的機関>国立遺伝学研究所*(中核機関) <大学>立教大学、山口大学、東京農業大学、東京工業大学
【期間】2011〜2016年度
【予算】498百万円 (83百万円/年)
【事業名】JST CREST「藻類・水圏微生物の機能解明と制御によるバイオエネルギー創成のための基盤技術の創出」

37)植物栄養細胞をモデルとした藻類脂質生産系の戦略的構築

【概要】多くの微細藻類は、植物のような貯蔵器官を持たず、光合成を行う細胞で貯蔵脂質の合成・蓄積を行う。そのため栄養飢餓などの限られた条件で脂質の高生産が起こる。本研究では、このような植物葉と微細藻類の脂質蓄積の共通性を基に、脂質の高生産系を戦略的に構築することを目的とする。そのため、有用藻類のゲノムや栄養飢餓応答遺伝子の情報などを網羅した基盤情報の集積とデータベース化を行い、それらを駆使してDHAなど種々の有用脂肪酸類の高生産系を創製し、バイオ燃料や有用物質を高効率に生産するための基盤技術の創出を目指す。
【委託先】<大学>東京工業大学*(中核機関)、埼玉大学、東京大学、東北大学 <企業>花王株式会社
【期間】2011〜2016年度
【予算】498百万円 (83百万円/年)
【事業名】JST CREST「藻類・水圏微生物の機能解明と制御によるバイオエネルギー創成のための基盤技術の創出」

38)ラン藻の硝酸同化系変異株を利用した遊離脂肪酸の高効率生産系の構築

【概要】本研究では、ラン藻による脂肪酸の大量生産系の構築を目指す。特色の第一は、細胞の増殖を抑制した状態でCO2から脂肪酸を合成させて細胞外に放出させることにより、肥料コストを大幅削減する点、第二は光エネルギーを最大限に脂肪酸の生産に活用させることで安定な大量生産を可能にする点である。これにより、単位肥料量あたりの生産量を従来の10倍相当とし、細胞乾燥重量の4倍以上の脂肪酸生産を実現する。
【委託先】<大学>名古屋大学*(中核機関)、中部大学、慶應義塾大学
【期間】2011〜2016年度
【予算】498百万円 (83百万円/年)
【事業名】JST CREST「藻類・水圏微生物の機能解明と制御によるバイオエネルギー創成のための基盤技術の創出」

39)珪藻のフィジオロミクスに基づく褐色のエネルギー革命

【概要】珪藻は地球上の光合成の25%を担い、脂質、DHA/EPA、シリカ等の有用物質も産生する。本研究では、弱光適応光合成生物である珪藻独特の光捕集システムを遺伝子工学的に縮小して増殖と環境応答能力を向上させ、また、脂質合成機構を解明して脂質生産能を飛躍的に高める。そして、明るい野外光下で海水を用いたバイオリアクタによる、大気中炭酸ガスの迅速な固定とバイオ燃料・有用物質生産の基盤を構築する。
【委託先】<大学>兵庫県立大学*(中核機関)、京都大学
【期間】2011〜2019年度
【予算】500百万円 (71百万円/年)※2016年7月までの予算。
現在「実用技術化プロジェクト」として延長中( 50百万-200百万円/年)。
【事業名】JST ALCA「先端的低炭素化技術開発」

次回part.3 では、2012年度採択以降(No.40~)の取り組みについて紹介する。


参考画像
Tokuyama”©2009 otaota DANA /CC BY 2.0

この記事を書いた人

SHARE