Euglena gracilisは、近年日本で『ユーグレナ』と呼ばれている話題の健康素材ですが、育て方ひとつで姿形が全く異なる生き物になることをご存じでしょうか?


●学名:Euglena gracilis
●分類:真核生物>エクスカバータ>ユーグレナ藻綱>ユーグレナ目>ユーグレナ属
●生息:日本を含めアジア、ヨーロッパ、アメリカなど世界中に生息。
●体長/形態:約50 µmの緑色の細長い細胞。細胞内には、貯蔵物質のパラミロンと言われる無色の顆粒が複数存在している。一本の鞭毛をもち、細長い形態のまま遊泳する他に、「ユーグレナ運動」もしくは「すじりもじり運動」という変形運動を行う。
●レア度:★★☆☆☆

ユーグレナ(Euglena gracilis)は緑色の小さな葉緑体を複数もち、光と二酸化炭素、水を利用して、無機培地(主に無機化合物が溶け込んでいて、エサとなるような有機物が入っていない培地)で光合成をする独立栄養生物です(詳しくはModia記事の『藻はどうやって生きているのか?-独立栄養と従属栄養の違い-』をご覧ください)。

ユーグレナの緑色は、主に葉緑体に含まれる葉緑素(クロロフィル)によるものです。その緑色のユーグレナを、暗所で有機培地(無機化合物の他に、多量のブドウ糖、酢酸などエサとなる有機物が多量に溶け込んでいる培地)を使って培養すると、光合成をせずに従属栄養生物として生活し始めます。

このように、ユーグレナは光合成をしなくても生きることができますが、3週間ほどで葉緑体は退化してしまい、プロプラスチド(proplastid)という無色の色素体を含む葉緑体になってしまいます。しかし、この無色のユーグレナを、明所で無機培養に戻して培養すると、プロプラスチドは再びクロロフィルを合成して緑色の葉緑体に戻ります(Schiff & Schwartzbach,1982)

また、緑色のユーグレナを32~35℃の高温条件下、あるいはストレプトマイシンなどの抗生物質を含む培地で培養しても、葉緑体をもたないユーグレナが得られます。しかし、暗所での培養の時とは異なり、この無色のユーグレナでは細胞中の葉緑体退色型のプロプラスチドが消失しています。

葉緑体はとても複雑な機構をもっていて、真核生物の藻類は自力では復元できない細胞内小器官です(詳しくはModia記事の『一次共生とは? -藻類の起源-』『二次共生とは?-藻類多様性の謎-』をご覧ください)。そのため、細胞中の葉緑体退色型のプロプラスチドが消失してしまった無色ユーグレナは、もとの培養条件に移しても葉緑体を再生することができず、緑色ユーグレナには戻りません(Leedale 1967)。

このようにユーグレナ目の葉緑体は繊細なため、進化の過程で自然に葉緑体が消失した無色ユーグレナも存在します。それがユーグレナ目アスタシア属(Astashia)です(下記写真)。


姿形はユーグレナに似ていますが、葉緑体を持たないため無色透明です。アスタシアの遺伝子の組成を調べた結果から、かつてアスタシアは葉緑体を持っていたと考えられていますが、現在のアスタシアにはプロプラスチドは存在していません。

健康食品として売られているユーグレナ(Euglena gracilis)も、緑色ユーグレナ(株式会社ユーグレナ製造)と無色ユーグレナ(株式会社神鋼環境ソリューション製造)の二種類があります。このように藻の様々な特徴を活かした商品が世に出ることを、藻ガール尾張は心から嬉しく思います!
 

雨ニモマケズ。風ニモマケズ。サンプリングを楽しむ筆者。


参考資料
Schiff, J. A., & Schwartzbach, S. D. (1982). Photocontrol of chloroplast development in Euglena. In Physiology (pp. 313-352).Leedale, G. F. (1967). Euglenois flagellates.
Kivic, P. A., & Vesk, M. (1974). An electron microscope search for plastids in bleached Euglena gracilis and in Astasia longa. Canadian Journal of Botany, 52(4), 695-699.
Siemeister, G., & Hachtel, W. (1989). A circular 73 kb DNA from the colourless flagellate Astasia longa that resembles the chloroplast DNA of Euglena: restriction and gene map. Current genetics, 15(6), 435-441.
井上勲 (2007). 藻類 30 億年の自然史. 東海大学出版.

参考画像
astasia02“©2012 schmidty4112 /CC BY 2.0