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藻は世界のサンゴを救う?

藻は世界のサンゴを救う?

サンゴ礁は、最も多様な海洋生息地と言われており、実に様々な生き物が住んでいる。その生き物を餌にして育つ魚を、あなたは昨日食べたかもしれない。また、美しいサンゴ礁が広がる海で、シュノーケルやダイビングなど楽しんだ経験がある方もいることだろう。サンゴ礁は、漁業や観光業など世界で年間300億ドルの経済効果をもたらし、5億人の生活に直接関与しているのだ。

しかし、サンゴ礁の保全対策を直ちに行わなければ、全世界のサンゴ礁の99%が今世紀中に絶滅する、と気候変動影響モデルの研究は予測している。

サンゴは褐虫藻に頼って生きている

動物であるサンゴは、褐虫藻と呼ばれる単細胞藻類(Symbiodinium属の渦鞭毛藻)と共生関係を結ぶことで生存を維持している。褐虫藻はサンゴの成長やサンゴ礁の形成に必要な物質(酸素や栄養分などの光合成産物)をサンゴへ供給し、その代わりに光合成に必要な窒素、リンなどをサンゴからもらっている。

褐虫藻から栄養をもらう以外にも、触手で動物プランクトンを捕食するそうだが、そこから得られる栄養だけでは健全な生育が難しいと言われている。

褐虫藻と離れ離れになったサンゴの結末

近年、温暖化に伴う水温上昇により褐虫藻の光合成系が損傷され、またサンゴから放出されることでサンゴ骨格が透けて見える状態になるという、サンゴの白化現象が世界中の海に広がっている。栄養供給を褐虫藻に依存しているサンゴは、長時間にわたり褐虫藻との共生関係を失うと最終的に死んでしまう。

褐虫藻が共生しているサンゴ(左)と褐虫藻がいなくなり白化したサンゴ(右)
引用元:https://oceanservice.noaa.gov/education/kits/corals/media/supp_coral02d.html

 

サンゴの白化を防ぐには、ストレス耐性をもつ褐虫藻が鍵?

褐虫藻の種間遺伝的多様性がサンゴの白化耐性に大きく関与することが知られている。オーストラリアのニュー・サウス・ウェールズ大学(University of New South Wales)に所属するレイチェル・レビン(Rachel Levin)博士の研究チームは、褐虫藻のシークエンシングデータを用いて、ストレス耐性の増加を図る褐虫藻の遺伝子組換え戦略を立てた。その研究結果は2017年6月30日、ジャーナルFront. Microbiol.に公開された。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5492045/

「褐虫藻についてはほとんど知られていないため、サンゴ礁保全行動を改善するための情報が得られない。」「褐虫藻は生物学的に非常に独特であり、今まで確立された遺伝工学の手法は適用しない。必要とされる研究を進展するため、我々は褐虫藻の新たな遺伝子解析を行い、その障害(遺伝子組み換え技術の確立)を克服することを目指していた。」とレイチェル・レビン氏が褐虫藻研究の困難性について説明している。

研究者らは、サンゴの白化を防ぐ可能性のある遺伝子(抗酸化遺伝子など)を特定した。「水温が徐々に上昇している海洋環境下でサンゴとの共生が維持できるように、遺伝子工学手法により強化された褐虫藻は、世界的なサンゴの白化現象を減らす可能性を示唆する」と彼らは語った。

しかし、遺伝子工学手法により開発した褐虫藻を環境中へ放出することに関しては、「フィールドベースの試験が始まる前に、潜在的なマイナスのリスクについて広く厳密に研究することが必ず必要だ」と強調した。

また、最近、米・ペンシルベニア州立大学(The Pennsylvania State University)の研究者たちはストレス耐性をもつ新種の褐虫藻(Symbiodinium glynnii)を同定した。この種類の褐虫藻と共生するサンゴが頑強であり、他の褐虫藻種と共生するサンゴにとって酷な環境にも耐えられることが分かった。

どうやら、ストレスに強い褐虫藻が、サンゴを救う鍵となっていくであろう。


参考資料:
A super-algae to save our seas? Genetic engineering species to save corals
https://www.sciencedaily.com/releases/2017/07/170720095111.htm

Stan & Debbie Hauter. Coral Bleaching. What is Coral Bleaching and Why Does it Occur?
https://www.thespruce.com/coral-bleaching-2924018

Rachel A. Levin, Christian R. Voolstra, Shobhit Agrawal, Peter D. Steinberg, David J. Suggett, Madeleine J. H. van Oppen. Engineering Strategies to Decode and Enhance the Genomes of Coral Symbionts. Frontiers in Microbiology, 2017; 8 DOI: 10.3389/fmicb.2017.01220
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5492045/

Newly described algae species toughens up corals to endure warming oceans.
https://phys.org/news/2017-07-newly-algae-species-toughens-corals.htm

この記事を書いた人

台湾出身、2010年来日。東京大学大学院農学生命科学研究科にて博士号を取得後、ちとせ研究所に入社。ライフサイエンスに幅広く興味を持ち、生物の力を最大化に生かし人類の生活・環境へ貢献できるように努力している。周りに影響されることなく自分軸のある人生を歩む、中国語、英語、日本語の三ヶ国語を操るトリリンガル。

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