先月、米エネルギー省が管轄するサンディア国立研究所から、ユニークな方法によるバイオ燃料生産の実証試験の記事が出ていたので紹介したい。

The good, the bad and the algae

カリフォルニア州最大で964㎢の湖水面積をもつソルトン湖(Salton sea)は、カリフォルニアで最も汚れた湖として知られている。ソルトン湖の周辺はもともと標高が海面下にあるほど低く、その湖水面でマイナス227フィート (-69 m) と、デス・ヴァレーに次ぐ全米二位の最低地点である。1905年に起こったコロラド川の氾濫によって、大量の水が流れ込み、現在のような大きな面積の湖となった。

溢れ出た水が流れ着いたことにより生じたソルトン湖には、水が入る入り口はあるが、循環させるための出口が無い。そのため、水は周りの土から塩分を吸い取りはじめ、流れ着いた農薬などを含みどんどん汚れていった。この汚染によって、1970年頃にはほとんどの生物が生存する事の出来ない、「死の湖」へと変わっていったのだ。現在のソルトン湖の塩分濃度(約4.4%)は太平洋の海水(約3.3%)よりも濃いほどに上昇しており、塩分に強い魚と知られるティラピアさえも死んでしまうような状態になっている。

そんな「死の湖」になるほど汚染されているソルトン湖であるが、サンディア国立研究所では藻類を利用してこの汚染を浄化し、それと同時に再生可能なバイオ燃料源を作り出すための研究を進めている。彼らのアイデアは、この汚染された湖の水を、藻類を培養するための培養液として使い、生産された藻類からバイオ燃料等を製造する、というものだ。

通常、藻類を大量培養する時は、人工的にプールを作って水を張り、そこに藻類の成長に必要な栄養素を溶かし込んで培養する。一方、今回サンディア国立研究所がとっている方法は、ソルトン湖の汚染された水(藻にとっては栄養源になる)をポンプで引き上げて、傾斜した雨どいのような水路に流す。そうすることで、水路の壁面に藻類を付着させることができ、藻類は汚染された水から栄養源を吸収してどんどん増えていく、というものだ。ちなみに、水を汲み上げるポンプは太陽電池を利用するため、電力をかけずに汲み上げ続けることができる。この仕組みによって、汚染された水からは塩類が抜けて浄化され、藻類はコストをかけずに増やすことができる。あとは定期的に増えた藻類を回収し、バイオ燃料に変換していけばよいだけだ。オペレーションコストとしては藻類の回収作業コストと変換コストだけで済む。

このシステムは『Algae Turf Scrubber(ATS)』 と呼ばれる方法がベースとなっている。ATSのコンセプト自体は1970年代から提唱されており、今は観賞魚の水槽などの水処理システム等の小さなタイプのものがDIYで作られていたりする。特徴としては、ある特定の藻類種を単一で培養するわけではなく、そこに流れる水の中で最も育つ藻を優先的に育てていく、ということが挙げられる。生えてくる藻類ならなんでもよし、ということで、農業でいうところの「自然栽培」に近い培養方法といえるかもしれない。米国の企業であるHydroMentia Technologies LLCでは、水処理にATSを使って実用化させている。今回の雨どい型の培養装置を開発したのも同社ということだ。現在は900フィート(270m)ほどの実証機での試験段階だが、既存の人工的な培養方法に引けを取らないレベルの生産性が出ているとのこと。近い将来、今は廃墟と化しているソルトン湖周辺が藻類燃料生産の一大生産地となり、浄化された水によって湖畔に再び人が賑わう時代が来ることを期待したい。

現在、世界では海や湖に農業肥料や工業廃水が流れ込んで富栄養化が進み、毒性を持った藻類が大発生(赤潮など)して人、魚、動物に被害を与えるという現象が頻発している。ある意味、これも自然界の浄化作用とも取れるものだが、それを人工的に発生させ、得られた産物を有効利用しようとするサンディア国立研究所の取り組みは、こういった現象の解決策に繋がる可能性がある。

昔、小学校の頃の漢字の試験で『自然』の反対語は『人工』という回答を見て、人類は自然に敵対する存在なのか、とショックを受けたことがあった。ただ、実際に科学に親しむことでより強く感じるのは、人類は自然の反対の立場になれるほど強くも賢くもない存在であるということだ。自然の営みをよく観察し、そこに流れる大きな力を上手に利用させてもらいながら、豊かな生活を築いていくことに人類は全ての知恵を注ぐべきだと感じている。

今回取り上げたサンディア国立研究所の取り組みは、自然の流れを理解した上に人の知恵を入れ込んで形にしようとしている点において、これからの生き方の一つの回答のような気がしている。こうした自然と共生する感性は、日本人が最も得意とする部分であって、本来は日本からもこういった自然との共生型技術がどんどん出せるはずだ。この日本人の感性にこそ、次の時代のビジネスチャンスが眠っていると感じるし、世界からも求められているところだと思うのだ。