日本ではまだ知名度は低いですが、世界的には硫酸化多糖や不飽和脂肪酸を生産する藻類として注目されている藻類です。
●分類:真核生物>アーケプラスチダ>紅藻
●生息:日本を含め、世界中に分布。
●体長/形態:直径約10 µlの単細胞球状藻類。細胞中央部に鮮赤色のフィコエリスリンを主成分とする星状葉緑体をもつ。細胞外に寒天質をまとっているため細胞同士が接着して大きな群体を形成することがある。
●レア度:★★★☆☆
『ポルフィリディウム』という海産藻類は、和名が「チノリモ」、漢字では「血糊藻」と書きます。なんとも生々しいグロテスクな名前をもちますが、顕微鏡で観察すると赤くてかわいらしい色の丸い藻類です。
ポルフィリディウムは野外でも肉眼で観察できます。赤色〜赤褐色で、ぬるぬるのっぺりとしたマットを形成するその様子は、和名「チノリモ」のとおり、まさしく「血糊」です。
自生しているポルフィリディウムの様子:Gaikwad et al. 2009
ポルフィリディウムの細胞が赤系の色をしているのは、光合成色素にフィコビリン系色素のピンク色のフィコエリスリンが含まれているからです。同じ赤系でも、アスタキサンチンなどのカロテノイド系色素とは全く異なる色素です。細胞の増殖時には盛んに葉緑体で光合成するためフィコエリスリンが多く、細胞はきれいな鮮赤色です。しかし増殖を止めると葉緑体が収縮してフィコエリスリンも少なくなり、細胞は赤褐色になってしまいます。代わりに、細胞内に健康食品用途で利用される不飽和脂肪酸のDHAやEPAを蓄積し始めることが知られています。(ポルフィリディウムの脂質に関しては、記事『【藻の基礎知識】脂質分野における藻類の利用』もご参照ください。)
また、ポルフィリディウムのぬるぬるの正体は多糖質です。寒天(=アガロースという多糖が主成分)の原料で知られるテングサと同じ紅藻の一種であり、細胞外に大量の多糖を分泌します。この多糖により細胞同士が接着し、地面や岩にのっぺりと広がります。乾燥や直射日光からこの多糖が保護してくれるおかげでポルフィリディウムは増殖できるのです。ポルフィリディウムの生成する多糖はこの性質から化粧品に利用されています。
ポルフィリディウム’porphyridium’ の語源は、ギリシャ語で紫’porphyra’に似ている’idion’という意味で、この言葉からは赤紫の藻類かな?ということしかわかりません。一方で和名チノリモ’血糊藻’は、赤色と多糖の性質をよく表した名前です。よくぞこんな大胆な和名をつけてくれたと、昔の日本の藻類学者を誇らしく思います!
海でのサンプリング中、ボートで休憩している筆者
参考資料
Gaikwad, M. S., Meshram, B. G., & Chaugule, B. B. (2009). On occurrence of the genus Porphyridium Nägeli: new to India. J. Algal Biomass Utln, 1(1), 102-106.
井上勲 (2007). 藻類 30 億年の自然史. 東海大学出版.
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