Modia[藻ディア]

藻類ビジネスとスピルリナの情報サイト

遺伝子組換え微細藻類を、世界で初めて安全に屋外培養?

遺伝子組換え微細藻類を、世界で初めて安全に屋外培養?

カリフォルニア大学サンディエゴ校の研究者と米国の藻類系ベンチャー企業サファイア・エナジー社(Sapphire Energy)は、米国環境保護庁(United States Environmental Protection Agency, EPA)の認可のもと、世界で初めて、遺伝子組み換え微細藻類の開放系利用における環境影響評価試験を行った。研究結果は2017年5月3日、ジャーナルAlgal Researchのオンライン版に公開された。

Scientists Complete First EPA-Approved Outdoor Field Trial for Genetically Engineered Algae

遺伝子組換微細藻類を、50日間屋外で培養

淡水に住む緑藻の一種、Acutodesmus dimorphusの遺伝子組み換え株を、50日間800Lスケールにて屋外培養することで評価試験が行われた。この藻類株は、脂肪酸生合成関連遺伝子と緑色蛍光タンパク質発現遺伝子が導入されたものだ。本試験は、米国エネルギー省の資金援助を受けている。

試験内容と結果

評価試験期間中、導入された遺伝子及びその遺伝子により得られた形質は、安定的に維持できた。遺伝子組み換え株を地元の五つの湖から採集した水のサンプルに接種し、サンプルにおける物種多様性、生物種構成、および生息する藻類のバイオマス量における影響は、野生株との間に差が見られなかった。また、遺伝子組み換え株の環境への拡散について調査したところ拡散が確認されたが、培養池から離れるほど拡散の検出は大きく減少した。

形質が維持でき、なおかつ在来種に悪影響を与えていないことから、研究者らは遺伝子組み換え株の屋外培養に成功したと結論づけている。

遺伝子組み換え藻類の活用に向けた第一歩?

共著者であるカリフォルニア大学サンディエゴ校・生物学部の生態学者ジョナサン シュリン(Jonathan Shurin)は次のように述べている。

『もし将来も今と同レベルの生活水準を維持しようとすれば、環境を破壊しない方法でつくる持続可能な食糧とエネルギーが必要になる。それを実現するには分子生物学と生物工学が非常に強力なツールである。』

『我々の研究は、遺伝子組み換え藻類とそれらの利益、そして環境リスクにおけるエビデンスに基づく評価に向けた第一歩であった。』

本試験に対する厳しい意見も

一方、この試験に対して厳しい批判の声もあがっている。

米国環境保護団体地球の友(Friends of the Earth, FoE)の上級環境保護運動家であるダナ・パールズ(Dana Perls)氏

『この研究は、オープンポンドで培養された遺伝子組み換え微細藻類が環境に広がっていくことを確認した。一旦遺伝子がボトルから放出されたら、それを元に戻す方法はない』

『屋外で遺伝子組み換え微細藻類を制限された範囲内で培養することが不可能だけではなく、実験室から最終製品に至るまでにおける環境リスクの対処できる十分な規制が現在はない。そういった必須な規制がない限り、遺伝子組み換え藻類及び他合成生物学の手法によって開発された生物を自然環境に放出、そして商業利用してはならない』

UKベーズ環境保護団体の一つであるBiofuelwatchのディレクター、レイチェル・スモーカー(Rachel Smolker)博士

『遺伝子組み換え微細藻類は野外で生き残れないと言われているが、その仮定に根拠となるものは全くない。実際は、燃料や化学品の生産、商業培養に望まれる特性の多くは自然界における競争優位性を与える。例えば、光合成能力の向上、捕食者と害虫への抵抗性、商業培養過程に耐えられる丈夫さ、より効率的に栄養素を利用する能力など。』

『カリフォルニア大学サンディエゴ校により行われた試験は非常に限られたものであり、遺伝子組み換え微細藻類が”安全”であるという保証はほとんどなかった。一方、私達は、これらの製品は本当に健康と環境のリスクを冒すほど価値が高いものなのか、と自分自身に問いかける必要がある。』


参考資料:
・S. J. Szyjkad, et al., Evaluation of phenotype stability and ecological risk of a genetically engineered alga in open pond production. Algal Res. 24: 378-386, 2017.1. S. J. Szyjkad, et al., Evaluation of phenotype stability and ecological risk of a genetically engineered alga in open pond production. Algal Res. 24: 378-386, 2017.
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2211926417300024
Audrey Fox.  First outdoor GMO algae trial threatens environment. http://www.foe.org/news/news-releases/2017-05-first-outdoor-gmo-algae-trial-threatens-environment
・Biofuelwatch responds to first open pond testing of GMO algae. http://www.biofuelwatch.org.uk/2017/biofuelwatch-responds-to-first-open-pond-testing-of-gmo-algae/

この記事を書いた人

台湾出身、2010年来日。東京大学大学院農学生命科学研究科にて博士号を取得後、ちとせ研究所に入社。ライフサイエンスに幅広く興味を持ち、生物の力を最大化に生かし人類の生活・環境へ貢献できるように努力している。周りに影響されることなく自分軸のある人生を歩む、中国語、英語、日本語の三ヶ国語を操るトリリンガル。

SHARE